哲学は難しい、とっつきにくいと思っていませんか。実は、ビジネスにおいて「哲学思考」はとても役立ちます。哲学者で、山口大学国際総合学部教授の小川仁志さんが「ビジネスに役立つ哲学思考」の身に付け方を伝授します。今回は「アイデアを生み出す」ための哲学思考法です。
「違うところ」に目を向けてみよう
世の中は、たくさんのモノやサービスであふれかえっています。にもかかわらず、日々新商品や新サービスが続々と出てくるのはなぜでしょうか? コンビニエンスストアに並ぶスイーツは新作が次々と入れ替わり、私たちを飽きさせません。書店に行くたびに目にするさまざまな新刊は、購買意欲をかき立てます。多くのサービスはどんどんアップデートしていき、私たちの生活はより便利になっていますよね。
新商品や新サービスが次々と世に出る理由は、「目のつけどころが違うから」です。少し着眼点を変えるだけで、新しいものが見えてくるのです。しかし、着眼点を変えるのは簡単ではありません。そこで参考になるのが、「違うところに目を向ける哲学」です。今回は3つの哲学を紹介しましょう。

1つ目は、フランスの哲学者ミシェル・セールの「ノワーズ」という概念です。ノワーズとは、ノイズのこと。一般にノイズは余計なものだと思われていますが、セールによると「あらゆる音にノイズが混ざっているように、本来それは私たちを規定する重要な要素」なのです。普段それに気づいていないだけで。
ここでいうノイズは、あくまで比喩です。本当は重要な部分なのに普段気づかないモノや場所、例えば角(すみ)や余白、付属品や副作用、脇役のような、物事の「部分」を指します。そこに着目するだけで、新しいものが見えてくるはずです。
私は法人向け公開研修サービスで、ビジネス哲学の研修をおこなっています。そこで受講者たちに、新たなビジネスを生むための着眼点を考えてもらいました。その一例を紹介しましょう。
ある受講者は、自転車の補助輪に着目しました。確かに補助輪は、自転車の付属品であり脇役でもある。「部分」には間違いありません。なかなかいい目のつけどころです。ただ大事なのはここから。脇役としての補助輪に目をつけたのはいいものの、さてそこからどうするか?
その受講者は「補助輪を、もっと目立たせる」と提案しました。例えば「補助輪がすごくかっこいい自転車」とか「ずっと補助輪を付けたまま走ることを想定した自転車」にするわけです。これはなかなか新しい発想ですよね。
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