「ストレスは万病のもと」ともいいます。そのストレス、実はさまざまな不調が関係しているかもしれません。この連載では、健康ジャーナリストの結城未来さんが、どんな方法で不調を解消できるのかを専門家に取材します。常日ごろからストレスにさらされている人、原因不明の不調に悩まされている人、まずは読んで解決の糸口を探ってみてください。

 「ストレス」というと、どんなイメージがわくだろうか?
 「悩み」「不安」「心配」といった、負のイメージを持つケースがほとんどだろう。

 言い換えれば、「心の重しがある」と感じたときに人は「ストレスなんだ」と言いたがる傾向があるように思う。

 以前、NHKのレギュラー番組で、ゲストの精神科医に言われた言葉が衝撃的だった。
 「自分のところには、ストレスを抱えた患者が多く受診する。なかでも重症な患者さんが共通して訴える言葉がある。何だと思う?」

 そのときに思い浮かべた言葉をいくつか述べたのだが、どれも不正解だった。今でも知らなかったら答えられなかっただろう。

 ――正解は、「忘れられなくてつらい」だ。

 「忘れ物をしないようにしよう」「単語を忘れないようにしよう」「予定を忘れないようにしよう」……こと日本では、「忘れるのはよくないこと」という教育を受ける。

 「忘れることは悪」とさえ感じている人も少なくないだろう。

 だが一方で、「忘れられなくてつらすぎる」と専門医の扉をたたく人がいるのも事実なのだ。

 そのときに初めて、「忘れる」ことの大切さに気付いた。

 「人間は生きていると、毎日のように小さなことから大きな出来事まで『嫌だ』『不快だ』と感じる事柄に直面している。たとえそのひとつひとつがささやかなものだったとしても、『忘れられない嫌なこと』が積もっていけば、『この世の中にはつらいことしかない』と感じ、いつか爆発してしまうんだ」というのが、その医師の解説だった。

 例えば、急いで駅に向かっている途中、信号が目の前で赤に変わったらイライラするだろう。混み合う駅構内で人とぶつかって嫌な気持ちになることもあるかもしれない。コーヒーを飲もうとしたタイミングで声をかけられ飲めないと、少し残念かもしれない。1日中嫌な思いを全くせずに過ごすということは皆無と言ってもよいだろう。

 だからと言って、外に出ず自室に終日こもったところで嫌悪感に陥ったり、のぞいたSNSの世界で傷ついたりすることがあるかもしれない。

 私たちは日々の「嫌な思い」を記憶から消していけるからこそ前向きなことを考えられるし、明るく前に進んでいけるのだ。

 以来、私はよく講演会で「忘れることが大切」という話をする。特に「覚えること」に対して“現役”である学生たちは、最初は「何を言い出すのだ」と言わんばかりにキョトンとした顔でこちらを見つめてくる。でも、解説が終わると大抵、「不要なことを忘れることって、本当に大切ですね!」と喜びの声をあげる。

 そうは言っても、「嫌なことをすべて忘れられる」のであれば、それこそ医師やカウンセラーは不要だろう。多かれ少なかれ、「忘れられない嫌なこと」は、常に私たちの周りにつきまとう。それがいつしか「ストレス」という名に変わり、私たちの心に重くのしかかってくるのだ。

 では、どうすればよいのだろうか?

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