連載3回目の今回は、「仕事でも趣味でも主人公を目指す」という生き方にスポットを当てていきます。東大卒・マッキンゼー出身の起業家である曽原健太郎さんに話を聞き、トライアスロンと幸福感のつながりを考察していきます。

サッカーW杯に映し出す「主人公」としての生き方

 4週間にわたるサッカーのFIFAワールドカップ2022(W杯)が終わりました。世界規模の観戦型スポーツは、国全体で1つの物語を共有します。日本サッカーの「ドーハの悲劇」もその一つでしょう。1993年、Jリーグが始まってサッカーに国民的注目が集まる中で、W杯初出場まで最後のワンプレーでの失点により、日本は予選敗退しました。

 あれから一世代の時を経て、当時の出場選手が監督となり、同じドーハの地で歓喜の物語を塗り重ねる。新しい景色までもう少し、という体験を日本全体で共有し、物語は続いていくことでしょう。そして私たち個人は、「自分も頑張ろう!」と小さな勇気をもらい、大きなお祭りは終わっていきます。

 人は、このような共同体の物語に酔う一方で、結局は自分自身を主人公として生きたいと願うものです。「大人のトライアスロン」とは、そんな願いを(ある程度の努力さえすれば)実現しやすい趣味であることは、当連載の初回に説明した通りです。

 とはいえ、日経ビジネス読者の皆さんには、
「仕事で活躍できていれば、趣味で主人公を目指す必要はないのでは?」
「運動は健康のためには必要だけど、そこまで頑張らなくてもよいのでは?」
といった疑問もありませんか。

 そこで今回は、「仕事でも趣味でも主人公を目指す」という生き方を考察します。取り上げるのは、令和エリートの典型ともいえそうな起業家、曽原健太郎さん(37歳)です。

 東京大学経済学部を卒業、経営コンサルティングのマッキンゼーに新卒入社、著名投資ファンドのベインキャピタルに転職、Origami(後にメルカリに買収)の初期立ち上げを経て、2014年に教育領域のウェブサービスを創業、19年に上場企業へ売却しました。現在はイタリア・ミラノを拠点に新たな起業に取り組みつつ、エンジェル投資家としても活動しています。

 体力気力ともに高い30代という時期に、起業の成功により自由なお金と時間が手に入り、いわば人生の選択肢が多い状態ではないでしょうか。その中でなぜわざわざ、過酷な長距離競技を続けているのでしょうか? ミラノの曽原さんにオンラインでお話をうかがいました。

インタビューに答える曽原健太郎さん
インタビューに答える曽原健太郎さん

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