10年間のキャリア中断で失いかけていた自信を、トライアスロンによって回復した人がいます。今回は、キャリアを再構築するとき、大人の趣味にはどのような効果があるのかを考察します。

 「リスキリング(学び直し)」が注目されています。「成長分野に移動するための学び直し」は、出産・育児のためにフルタイム勤務・正社員の立場から離れた女性にとって非常に重大で、女子大キャリア講座の講師を7年担当している私も注目し続けてきました。今回、こうしたキャリア再構築と、トライアスロンのような本気の趣味との関係について考えてみます。

 「成長分野に移動」といわれても、現実は厳しいものです。そもそもリスキリングが求められるのは「今の努力の延長線上」には未来図を描けない人たちです。どこを目指し何を頑張るのか? その努力は本当に報われるのか? そんな迷いの中でも進まなければなりません。今回取材したのは、そんな状況をクリアした40代女性、岩崎るみ子さんです。

トライアスロンとキャリアについて語る岩崎さん
トライアスロンとキャリアについて語る岩崎さん

 出産・育児のため大手企業を退職した岩崎さん。約10年間の実質的なブランクを経てキャリアを再開するに当たり、過去の経験を生かせる仕事を見つけることができませんでした。ただ、岩崎さんは諦めませんでした。未経験業界での派遣社員からスタート、昇進と転職を繰り返して、5年で出産退職時の年収を超えることに成功しました。

 実は岩崎さんは、大手企業を退職した後にトライアスロンを始め、長距離の世界選手権にも出場しています。

 念のために言っておきますが、キャリア構築法に正解はありません。一人ひとりの成功体験談は正解ではなく、ご自身を成功に導くためのヒントです。ここでお伝えしたいのは、「トライアスロンをすればキャリア再構築もうまくいく!」という話ではなく、「こんな生き方もある」という1つの事例の紹介にすぎません。トライアスロンを取り上げていますが、例えば音楽演奏や絵画制作のような趣味に置き換えて想像していただいても構いません。

 では、岩崎さんのストーリー、ここから始まります。

激減した年収が私の価値?

 私(岩崎さん)は、関西の文系私立大を卒業後、地元でフリーアナウンサーに従事したり、ソニー(現ソニーグループ)の子会社での法人営業などを経験したりして、キャリアを積んできました。とにかく仕事が好きでした。結婚後に出産したときには、1年で復帰するつもりでした。

 ところが、産後3カ月ほどたった頃、会社から呼び出されます。ベビーカーを押して会議室に入ると、本社の人事担当役員が待っており、「年内に関西の営業所を閉めます。育休復帰後は東京本社勤務か、早期退職かを選んでいただきます」と告げられます。リーマン・ショック直後の大規模なリストラの影響でした。

 ここで私は家庭を選んで退職しました。そのときは、「今までの経験を生かせる場はあるはず」という自分なりの見立てもありました。しかし、子どもが1歳を過ぎたときに就職活動をして見つけられた仕事は、派遣事務でした。

 私は仕事が大好きすぎて、1日中仕事のことを考えてしまいます。仕事をみっちり入れるような性格なので、例えば子どもが熱を出したとしたら、お迎えや病院に連れていくなどを対応しきれる気がしませんでした、そんな私でも育児と両立できそうな条件で仕事を探したところ、当時は自宅近所での時短の派遣事務だけだったのです。10年かけて積み上げてきたイベント司会、エンジニア教育、営業、マーケティングといった経験は全く役に立ちませんでした。

 キャリアは消えて、年収も激減。自分の価値まで激減した気がしました。派遣の立場で仕事を工夫しても、誰も評価してくれません。「私、頑張って仕事してきたのに、諦めさせられて、いったいなんなの?!」

 ストレスの行き場がなくなり、走り始めました。

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