運動の健康効果についての最新科学
いかがでしたか? 「森田さんは元気すぎる!」「急に運動をやめたせいでは?」などと思われるかもしれません。ですが、彼が体験したような運動の効果は、信頼性の高い最新文献からも裏付けることができます。
第2回・トライアスロンの「コスパ」を考える やって得する? 損する?では運動による長寿効果の統計データを紹介しました。今回は、なぜそうなるのか、人体の仕組みの最新医学を中心に紹介してみましょう。
なお運動関連の情報については、大きく間違っていなければいい、という程度で理解すべきだと私は考えています。分かっていないことも多く、自分自身の感覚を重視すべきだと思うからです。
運動が脳に効くメカニズムについて、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏の著書『運動脳』(発行:サンマーク出版)を絶賛するビジネスパーソンが目立ちます。この本で説明されている脳由来神経栄養因子「BDNF」は、特に激しい有酸素運動によって脳内で生産され、脳細胞間のつながりを強化し、細胞の生存や成長を促し、老化を遅らせる働きをします。薬剤として補給することはできません。
全身の健康効果については、『筋肉が がんを防ぐ。 専門医式 1日2分の「貯筋習慣」』(発行:KADOKAWA)で医師の石黒成治氏がコンパクトに紹介しています。運動によりヒト成長ホルモン(hGH)が分泌され、老化を抑制します。神経伝達物質(サイトカイン)である「マイオカイン」も筋肉から分泌され、直接の抗がん効果、骨の老化防止、動脈硬化の予防などの働きをします。
逆に運動しないとどうなるのか? 『運動しても痩せないのはなぜか:代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」』(発行:草思社)が世界の主要メディアで注目を集めています。デューク大学人類進化学准教授のハーマン・ポンツァー氏は、「運動するかどうかでカロリー消費量はそれほど変わらない」という衝撃の調査結果を踏まえ、「運動しなくて余ったカロリーが、慢性炎症やストレス反応を増加させる」との仮説を提示します。慢性炎症はさまざまな病気と関わるので、運動の本当の効果は「体全体の調子を整えて、病気を予防すること」にあるというわけです。
歴史をたどると、人類の祖先は数十万~数百万年前、敵の多い地上に降り、歩き始めました。脳は大量のエネルギーを消費するので、食料の安定確保が必要となり、リスクを取って高いリターンを求める冒険に出たようです。以後、運動・思考・コミュニケーションなどを総合的に駆使して生存してきたのですが、現代社会では運動だけが不要になり、身体機能のバランスが崩れています。こうした大きな歴史観を、ポンツァー氏の師であるハーバード大学人類進化生物学部教授ダニエル・リーバーマン氏が『運動の神話』(発行:早川書房)で説明しています。
最新科学の限界と「感動体験」の効果
科学は進歩し、今まで見えなかったものが見えるようになっています。最新科学も時間がたてば昔話になるのです。「最新の健康法」を頼るのは一見合理的なようで、実は、
(1)情報自体が正しいか
(2)自分に向いているか
(3)実行し習慣化できるか
(4)どの程度の効果を得られるか
といったハードルが多いのです。
しかし、「自分の感動体験」を起点に運動すれば、少なくともそれ自体からの幸福感は得られます。その後のオマケで健康効果もついてきます。
とはいえ「感動体験」とは、普通に過ごしているだけではなかなか巡り合えないもの。そこでスポーツ大会の出番です。一度体験すれば、例えば箱根駅伝をランナー目線で対等に見ることもできるでしょう。中でもトライアスロンの特徴は「多様性」ではないでしょうか。スイム、バイク、ランの3種目があるので、観光地で「泳ぐか、自転車をレンタルするか、走るか」と体験の選択肢も増えます。トレーニング効果、リフレッシュ効果も多様になります。
そんな感動を追っていたら、いつの間にか健康効果も得ていた(そのことに一度やめて気付いた)のが、今回取材した森田さんの体験です。
この健康効果は、おそらく健康寿命も延ばし、今後の人生の感動体験を増やすのではないでしょうか。

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「大人のトライアスロン」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?