「大人のトライアスロン」連載、今回は、運動の健康効果について。トライアスロンの練習は疲労をもたらします。でも習慣にしている練習をやめてしまうと、もっと体が疲労するというのは本当でしょうか。「20歳から29年間続けていたトライアスロンを、仕事に集中するため一時的にやめてみたら」――49歳男性の実体験を聞きました。
運動できないあなたに必要なのは「感動体験」
お正月の箱根駅伝を、あなたは「観客」として見ましたか? 同じ「ランナー」の立場で見ましたか?
見てから「今年こそ走る!」と決意しましたか? その決意はすでに実行に移しましたか?
日経ビジネス読者の多数派は、運動するメリット/しないデメリットを理解していて、「私は運動しなければと思っている」といったあたりかと思います。しかし、人は分かっていても行動できないもの。運動するだけならまだしも、それを習慣化するにはハードルがさらに上がります。
これは脳の「報酬系システム」の問題です。運動して感動した体験があれば、脳内で快楽物質ドーパミンが分泌され、ワクワクした気分になり、あなたを次の運動へと突き動かします。その達成が次のドーパミンを招きます。このように考えた場合、運動習慣のために必要なのは、「感動体験」を起点とした脳内分泌のマネジメントなのです。
モチベーション論には「3人のレンガ職人」という定番の比喩があります。
- レンガを積む作業を、単なる義務だと思うAさん
- レンガで壁を作れば、ご褒美がもらえると思うBさん
- レンガの壁の教会ができれば、みんなが幸せになると思うCさん
この3人で最もモチベーションが高いのは誰なのか、という話です。運動も同じです。
- 運動しなければならない、という義務感のAさん
- 運動で得られる健康というご褒美を目指すBさん
- 運動の先にある大会出場などの体験を楽しむCさん
運動を継続できるのはおそらくCさんではないでしょうか。感動が大きいほど人は行動しやすいのです。
ささやかな感動でかまいません。「仕事帰りに長く歩いたら気持ちよかった」くらいから始めればよいのです。箱根駅伝に感動したならコースを走って追体験してもいいでしょう。ランニングでは一部しか走れませんが、自転車なら長い距離を走破できます。
私自身も35歳ごろに自転車に乗り始めて約1年後、東京から小田原まで駅伝4区間分を走ってみました。場の空気を感じられるのが自転車です。選手たちと同じ体験をしている(気がする)、という感覚は私の自転車熱を大いに高め、37歳からのトライアスロン挑戦につながりました。
感動体験の定番は「自分が主役になれるお祭り」
ドーパミンのあふれる(あるいはワクワクできる)場面として、「自分が主役になれるお祭り」は強力ですね。トライアスロンなどの大会もその1つです(連載の第1回・忙しい人ほどハマる? 大人のトライアスロンには何があるのか、第3回・エリート起業家に見るトライアスロンの幸福感をご覧ください)。
大会出場者にとって運動とは「感動体験のための手段」です。感動を目指していたらオマケで運動効果もついてくる、という関係です。
では、そんな運動スタイルは、仕事など生活全体に対してどのような影響があるのでしょうか? 厳密に測定することは困難ですが、「長年続けていた運動をやめてみた体験談」なら、いくらかの参考になるでしょう。
そこで、「20歳から続けていたトライアスロンを、仕事に集中するため一時的にやめてみた49歳男性」の経験を紹介しましょう。お話をオンラインでうかがったのは森田起也(もりた・たつや)さん。大手製造業を経て20代で独立、経営する日本ピーシーエキスパートは旧式コンピューターの延命サービスが注目され、日経新聞などメディアでも紹介されました。


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