精神科医Tomy先生が、ビジネスパーソンのさまざまな悩みに向き合う、「心のコリを解きほぐそう」。今回のテーマは「パワハラ」です。「ハラスメント」の定義が曖昧であるがゆえに、苦しんでいる管理職の方も多いのではないでしょうか。ある日突然、部下からパワハラを訴えられた女性管理職の悩みに、Tomy先生が答えます。

「セクハラ」「パワハラ」「モラハラ」「アルハラ」――世の中には多くの「ハラスメント」があふれています。私はね、この「ハラスメント」という言葉には非常に疑問を持っているんですよ。
もちろん、ハラスメントに該当する事象があることは十分に理解できます。でも、ハラスメントの定義が今、「自分が嫌だと思ったらハラスメント」となっていますよね。これが、よろしくない。そんな不公平な話がありますか?
定義が曖昧だから、何でもかんでもハラスメントになってしまっています。何か言ったらハラスメント、言わないなら言わないでハラスメント。これでは収拾がつきません。
会社や部署のカルチャーにも大きな影響を受けますよね。だから、転職して、前の会社では当たり前だったことが、新しい会社ではハラスメントになってしまう、なんてことも起こるわけです。
大事なのは、個人の感情ではなく、事実ベースで話をすることなのです。
部下から突然の訴え「チャットの指示が怖い」
今回のテーマは「パワハラ」です。悩みを抱えているのは、40代のけいこさん。まだ女性管理職が少なかった時代から努力を重ね、新卒で入社した大手通信会社の事業部長にまで昇進しました。
この10年近くで、女性の社会進出は大きく進化を遂げています、だからこそ、後輩女性たちがより働きやすくなるような会社や社会にしていきたいとけいこさんは考えています。
そんなけいこさんの部署に、25歳の女性社員A子さんが配属されました。キラキラと目を輝かせて主体的に仕事に取り組み、のみ込みも早い。頑張ってほしいからこそ、つい指導にも力が入ります。それでも、けいこさんなりに、丁寧に指導してきたつもりでした。
そんなある日、けいこさんは上司に呼び出され、思いがけない事実を伝えられます。
「A子さんがあなたからパワハラを受けたと言っている」
まさか、まさか! 自覚はまったくありません。けいこさんは頭が真っ白になりました。
話をよく聞くと、コロナ禍でテレワークとなり、やりとりがチャットの文字ベースになったことで、「指示が怖い」「やる気がそがれる」と訴えているそうです。
細かい指導はA子さんに期待しているからこそです。それに、仕事のチャットに、いちいちスタンプや絵文字は使っていられません。
上司はけいこさんに言いました。「最近は、パワハラで問題になるのは、女性のほうが多いらしいよ。頑張ってきた人は、他人に厳しいからね」
何のために、意思決定できる立場になれるようこれまで頑張ってきたのだろう……。
「Tomy先生、この出来事があってからというもの、若い社員たちとの距離感が分からなくなりました。何を言ってもパワハラになるのではないかと思うと、注意もできません。必死に頑張ってきた私の、一体何がいけなかったのでしょうか?」
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