精神科医Tomy先生が、ビジネスパーソンのさまざまな悩みに向き合う、「心のコリを解きほぐそう」。今回のテーマは「自己肯定感」です。よく聞かれる言葉ですが、なぜ自己肯定感が低くなるのか、どうすれば楽になれるのか。28歳の悩める若手社員の悩みに、Tomy先生が答えます。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 目の前のコップに、水が半分入っています。「水が半分しか入っていない」、「水が半分も入っている」、皆さんが感じるのはどちらでしょうか。

 満たされているほうを見るのか、欠けているほうを見るのか。そこには、それぞれの思考の癖が表れます。

 今回のテーマは、「自己肯定感」です。自己肯定感とは、言葉の通り、ありのままの自分を肯定する感覚のこと。この自己肯定感を持てずに苦しんでいる方が、私のところにも多く訪れます。

 とはいえ、自己肯定感が低い人は、周囲がどれだけアドバイスしても、なかなか高くはなりません。何歳になっても、どんな立場になっても、悩み続ける人は多いんです。

 一方で、自己肯定感に悩んだことがない、という人もいます。そういう人はおそらく、悩まないまま人生を終えるでしょう。

 第1回の「劣等感にさいなまれて苦しい。上手な付き合い方を教えて」でもお伝えしましたが、どんな立場になっても角度を変えれば自分より優秀な人はいます。他人と比較し、足りない部分に目を向ける思考の傾向を持つ人は、常に人と比べて「自分は劣っている」「自己肯定感が足りない」と悩むことになります。「水が半分しか入っていない」と考える思考の傾向を持っているからです。

「親ガチャ失敗、自信が持てずチャンスを逃しました」

 今回、悩みを打ち明けてくれたのは、製造業で働く28歳のてつや(仮名)さんです。両親はともに教師で、父親は地元の進学校の校長を務めています。教育熱心な親の元で、かなり厳しく育てられたようです。

 てつやさんには3歳上の兄がいます。これがまた、非常に優秀なんですね。親の期待にしっかり応え、有名大学を卒業した後、誰もが知る一流企業に就職しています。

 物心ついた頃から、そんな優秀な兄と比べられて育ったてつやさんは、「親から褒められたことがない」と言います。たまにテストでいい点数をとっても、「もっと頑張れ」となぜか怒られる。次第に、てつやさんは自分は何をやってもダメな人間で、自分には価値がないと考えるようになりました。

 地元ではそれなりに名の知れた製造業の会社に就職し、社会人になったてつやさん。会社で上司から「将来どうなりたいのか」「あなたの強みは何なのか」と聞かれるたびに、苦しくなってしまいます。

 「自分には強みなんてないし、どうなりたいかなんて、考えても無駄だと思って生きてきたんです」

 気がつけば入社6年目に突入。同期がチームリーダーに抜てきされていく中、力を発揮し切れていないてつやさんに、上司が成長機会を提供したいと考え、「大きなプロジェクトに参加してみないか」と声をかけました。

 「君は真面目で、コツコツ仕事をする。もう一歩、次のステージに進んでほしいと思っている」

 しかし、そんな上司に対して、てつやさんは、こう返事をしました。

 「自分には無理です」

 失敗が怖く、そんな大きなプロジェクトが自分に務まるわけがないとてつやさんは考えたのでした。

 チャンスを棒に振って、また同期との差が開いてしまう――。帰り道、てつやさんは暗い気持ちになりました。いつも、いざというときに自信が持てずに頑張れない。自分に自信がないのは、家庭環境のせいだとてつやさんは考えています。

 「親ガチャに外れなければよかったのに……。僕が違う家族の下に生まれていたら、もっと別の人生があったのではないでしょうか。先生、どうしたら、自分を肯定することができるようになりますか」

次ページ 「親ガチャ」という考え方が「他人軸」なのよ