コンセプトを中核に、マーケティングとクリエイティブについて考えてきた本連載。実はコンセプトはすべてのビジネスに必須のものではなく、コンセプトがない方が強みを発揮できるケースもある。今回はコンセプトと事業の強みの関係を探る。
(写真:123RF)
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 コンセプトを中心に置き、ビジネスはそれを届ける乗り物だと考える。この思考法、実は万能なものではありません。使えない場合、いや、使わない方がよい時もままあるのです。ビジネスとは状況に応じて、手を変え品を変えて、戦っていかねばなりません。鉄則をガチガチに守る、というようなスタティックな考え方はダメです。

 では、コンセプトベースの思考法は、どのような状況で有効・無効となるのでしょうか。少し遠回りしながら、考えてみましょう。

コンセプト、ブランド、コア・コンピタンス

 この連載には、コンセプトと似たような言葉が出てきました。それが、「ブランド」と「コア・コンピタンス」です。この3つ、非常に似ていますが、ただ、けっこう異なっています。

 まず、コア・コンピタンスですが、これは、「自社の優位性の源泉となるもの=自社特有の強み」です。それがあるからこそ、他社に凌駕(りょうが)されず、企業は存続している意義がある。これが技術の陳腐化などで小さくなると、競合に負けるか、もしくは、利益率が低下するかで、遠くない将来にその企業は市場から退場することになるでしょう。

 だから、長期にわたり、経営が良好な状態で継続している企業には必ず何かしらの「強み」があると考えられます。記憶してもらうために繰り返しますが、あまねく企業は「強み」を持っている(だからこそ、存在する)。

 ブランドは、このコア・コンピタンスを上手に利用して、「わが社は、ユーザーに○○を提供する」と約束することを指します。この約束が常に守られているようであれば、顧客は、「あの企業は○○してくれるから」と頭に染み付いていくでしょう。そうすると、「○○してほしい」と思ったら、その企業を選ぶという合理的思考が、世に広まっていきます。こうした状態を「ブランドが確立された」と表現し、学術的な言葉で「選択負荷の軽減」と呼びます。あまた商品やサービスが並んでいても、顧客は迷わず製品選択ができ、しかも、購入後に失望することがありません。

 ここまでを整理して、コア・コンピタンスとブランドの関係を考えてみましょう。

同じ技術力の2社でも、コア・コンピタンスは異なる

 ここに、技術力がほぼ同じで、それ自体はコア・コンピタンスとはならない(=競合とは差別化できない)状態のAとBの2社があります。

・A社はこの技術を利用して「斬新奇抜な製品を創りユーザーを驚かそう」と考えた
・B社はこの技術を利用して「不良品がなく、壊れず、長く使える製品作り」を目指した

 同じ技術力でも、経営方針はA社とB社で異なりますね。その結果、両社は、別々の方向に進化を続けます。

・A社は、「常識を壊せること」そして「協調性よりも競争性」を重視して人を採用
・B社は、「伝統を守ること」そして「縁の下の力持ち」となれる人を採用

 戦略の違いが採用の違いとなり、社風も対照的になっていきます。もちろん、表彰制度や給与配分なども、A社とB社では全く違うものになるでしょう。

 結果、同じ技術から、全く異なる会社が出来上がりました。

 A社は「常識外れ、野武士集団」、B社は「常識的、官僚的集団」です。

 こうした経営戦略が結実し、A社、B社は思った通りの製品を世に送れるようになりました。その時、両社の「コア・コンピタンス」は以下のように表せるでしょう。

A社:斬新な製品をいち早く市場投入できる力
B社:安く壊れない製品を大量生産できる力

 おのおの、技術だけでなく、「人材」「制度」「社風」なども一体となって、この力を作り上げています。コア・コンピタンスとは、こうして「会社総体」で作り上げるものなので、ひとたび確立すると、なかなか刷新はできません。それが、悩ましいところでもあるでしょう。

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