紫乃ママ いらっしゃい。あら高梨さん、お久しぶり。
高梨 お久しぶり! 赤坂へ移転して1周年、おめでとうございます。
紫乃ママ ありがとうございます。元気にしてました?
高梨 元気ですよ。仕事で最近は九州を飛び回っています。ただ、4年後には還暦。やっぱりいろいろ悩みがあって……。
「会社員としてはもう終わり」と宣告された気分
高梨 これまでの人生、僕はすごく真面目に生きてきました。ずっと「must(やるべきこと)」を軸に生きてきたから、「want(やりたいこと)」ってほとんど考えたことがないんですよ。学生時代は誰から命じられなくとも「当然、勉強はすべきもの」で、高校も大学も難関校に入って、疑問を持つことなく大企業に。38歳で転職するまでは、同期でもほぼトップの成績で出世街道にしっかり乗っていたように思います。ずっと達成欲に引っ張られて生きてきたんです。
紫乃ママ ひゃぁ、すごい。絵に描いたようなエリート街道。ずっとトップってなかなかできない(笑)。そのエリート高梨さんが転職とは。転職したのは何でなんです?
高梨 その転職も僕の中ではmustの延長線上にあるんだけど、さらに「達成欲」を満たすために挑戦したいことが見つかったんですよね。ところが結果的には、人生初の大きな挫折になりました。転職後しばらくたったらリーマン・ショックが起きて、会社が大きく傾いてしまって。元の会社の上司が「戻ってこい」と言ってくれたのを渡りに船だと思って戻ったんだけど……。その上司がすぐに辞めてしまって、状況が一変。転職前は同期で先頭を走っていたのに、最後尾の平社員から再スタート。大企業は後ろ盾がないと出戻り社員にびっくりするほど冷たい。覚悟はしていたものの、ここまで冷遇されるとは思いませんでしたよ。
でも、同期が出世することよりもつらかったのが、学生時代の友人がどんどん偉くなって活躍しているのを見ること。日経新聞を開いたら、友人の名前が何人も出てくるの。今の仕事も楽しいんだけど、自分もたぶん、そういう(新聞に載るような)活躍をしたかったんだろうなぁという思いがあって。
紫乃ママ 大きな会社に戻れただけでもすごいし、もともと優秀だからある程度のところまでは追いつけているのに。それなのに友人の活躍を知ると敗北感を持っちゃうの? まあエリートのライバルはエリートか。
高梨 正直、年を重ねるごとにより大きな仕事、社会的にインパクトを与えられる仕事ができるようになっていくと思っていたんでしょうね。「自分は何をやっているんだろう」って感じるときが今でもあって。
コースから外れてしまった56歳の自分に昇格の芽はない。つまり、もはやより大きな責任を任されることはない。昇格どころか、会社には仕事を手放すように言われて年々業務が減っているし、今の担当だっていつ外されてもおかしくない。まだ自分は大きい仕事ができるのに、会社員としては「もう終わりです」と宣告されている感じで。「定年延長しますか?」と聞かれるような研修も入ってくるんですよ。
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