物議を醸す前に論議を

 19年、韓国では難病で亡くなった愛娘を仮想現実(VR)で「復活」させるドキュメンタリー番組が放送され、年末には日本で人工知能の美空ひばりが紅白歌合戦の舞台に立って「お久しぶりです」と言った。20年の米国大統領選では、2年前に銃乱射事件で犠牲になったホアキン・オリバーさんの人工知能が銃規制を訴える動画に出演。同じように、22年にはオランダで何者かに銃殺された当時13歳のセダール・ソアレスさんの人工知能が事件解決に向けて情報提供を呼びかける動画が公開された。

 それぞれが強いインパクトとともに大きな物議を醸した。いずれも遺族の了承を得て進められたプロジェクトだったが、本人の了承は得ていない。

 一方で、22年6月にALS(筋萎縮性側索硬化症)で亡くなった英国のピーター・スコット・モーガン博士は生前から自身が率先して自分の人工知能を作成していた。そちらに異を唱える声は少なくとも公の場では聞かない。

 生前の本人による意思表明の上に立つ「死後デジタル労働」であれば、世間の向かい風をずいぶん抑えられそうだ。『D.E.A.D.』はその有効な第一歩になるかもしれない。

 アクセス数は順調に伸びているという。

 「立ち上げた当初よりも、22年になってからのほうが意思表明の数は伸びています。世の中がこういうことを議論することに前向きになっているのではないかと思いますね。徐々にタブーじゃなくなってきているなと感じます」(富永さん)

 サイト上でYES/NOを問うアンケートの結果は、アクセス数が伸びるほどにYESの割合が上がっている。2年半前の事前調査時、自身の「死後デジタル労働」を認める割合は37%だったが、現在は44%まで上昇している。拒否派が多勢であることに変わりはないが、徐々に肯定派も割合を伸ばしている。

自身の死後デジタル労働を問う『D.E.A.D.』のアンケート画面。22年8月20日のもの
自身の死後デジタル労働を問う『D.E.A.D.』のアンケート画面。22年8月20日のもの
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 ただ、タブーが解消されても、すべての人がデジタル故人に肯定的になるわけではないし、本人の許可があったとしても嫌悪感を抱く人は存在するだろう。それを踏まえて折田教授は今後のデジタル故人をこう展望する。

 「俳優の容姿としぐさ、芸術家や作家の作風など、パーツごとに故人の要素を活用する道筋は残りうるでしょう。ただ、全人格を想定して復活させる方向は、倫理面だけでなく習慣においてもまだ課題が多いと感じます。とくに日本では仏壇や遺影に語りかける生活習慣が長らくあります。この習慣と、語りかけに対して具体的なアクションを返してくるデジタル故人が折り合えるのかどうかがまだわからないところです。もし、デジタル故人との対話が受け入れられるとしたら、むしろ日常で故人に話しかける習慣があまりない人たちや地域からかもしれませんね」

 いずれにしても数年の話ではなく、もっとロングスパンでの話だ。

 デジタル故人が数世代かけて定着するか、その前にあだ花として散るか、変形して部分的に残るか――。育て方次第で将来が大きく変わっていきそうだ。

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この記事はシリーズ「古田雄介の「デジタル故人とは何か?」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。