写真やつぶやき、日記など、故人が残した痕跡を再構築してデジタル故人を作り出す。その需要は現在どれくらいあるのだろうか? 世界がコロナ禍に見舞われた2020年以降に行われた調査とその分析から、最新の世相を探りたい。

「デジタル故人は受け付けない」と考える人が多数派
デジタル情報と死の関係性を追いかけている関東学院大学の折田明子教授は、2022年1月に調査会社のマクロミルに依頼してオンラインアンケートを実施した。20年以降に近親者を亡くした20歳以上の日本人を対象に、故人が残したデジタルデータやSNS(交流サイト)などをどうしたいかを問う内容だ。有効回答は20代から70代まで1303件。
その調査によると、故人が残した写真やSNSの投稿などがある場合、「よく見ている」「時折見ている」「今後見るかもしれない」との回答が「今後も一切見たくない」を圧倒した。デジタルの形見が比較的多くの人に受け入れられている様子がうかがえる。
その一方で、故人が残したデータに何らかの手を加えるなどして活用することに関しては、大多数の人がかなり消極的だと分かった。下のグラフのように、「故人が写っている写真に何かを追加する」や「広く公開する」など、複数回答方式で挙げられた項目に関心を示す人は少なく、「当てはまるものはない」が85.0%と圧倒的に多い。
デジタル故人の需要に直結する「故人が残したものをデータベースにして人工知能(AI)を作り、故人と会話(チャット)ができるようにする」という項目を選んだ人はわずか1.3%だった。
つまるところ、身近な人を亡くして間もない人たちであっても、現時点ではデジタル故人の需要はかなり小さいと言える。写真や動画データ、SNSの投稿などが形見として大切にされることは珍しくないが、それらを加工する段階までは求めていない人が大半のようだ。
この結果を受け、折田教授は「デジタル故人に関しては、自分が予想していたよりも需要が少なかった。受け入れる素地は、まだない印象です」と率直に語る。そして、むしろ拒否感を示す人のほうが多勢とみている。
折田教授は講義でも、学生に著名人を思い浮かべてもらい、その人が亡くなったときにデジタルデータをどうしたいかを聞いてみたという。すると、やはりデジタル故人化を含めたデータの加工に積極的な反応はごく少数であった。一方で「あまりやってほしくない」「絶対やってほしくない」との回答はクラスの半数を超えていたという。「どちらでもない」は2割程度にとどまっており、明確にノーを示す学生が大半だった印象があるという。
「故人が残した写真や文章をネットに公開するかどうかでは、ここまで拒否感が多数であることはありませんでした。デジタルネーティブ世代であっても、故人のデータを加工して新たなものを生み出すことに関しては、受け付けないという人が現時点ではまだ多数なのだと思います」(折田教授)
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