クローン化の権利問題は柔軟に広げ、解決策を探っていく

 故人のクローン化については遺族に許可を求めるのが基本となる。が、状況に応じて柔軟に対応するスタンスだ。

 「それぞれの遺族の意向を確認すべき状況もありますし、存命の方でも亡くなられた後の展開も想定しているのであれば、ご家族にも許可を得るのが適切な場合があるでしょう。そこはその都度考えていくべきだと思っています」

 デジタルクローンの権利にかかる問題は容易には解決し得ない。家庭の事情が各戸で異なるように、デジタルクローンが広がるほどに新たな個別の事情が顔を出す。同社はそれを見越して哲学者や心理学者などによるデジタルクローンの倫理委員会を立ち上げており、状況に応じて専門の知見を受け取りながら柔軟に解決策を探っていく構えだという。

 ちなみに、同社はメタリユニアとは別に、22年1月からデジタルクローンの希望者を受け付けているが、生死を問わず他薦にも対応している。他薦の場合は「当社がご応募者に代わって権利者と交渉させていただく場合もございます」とのこと。すでに自薦を含めて数十件の応募が届いているそうだ。

オルツのデジタルクローン応募フォーム
オルツのデジタルクローン応募フォーム
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 では、作られた故人のクローンは誰が管理すべきか。例えば、故人のクローンがヘイト発言をしたり特定の誰かを侮辱したりすることも考えられる。運営元が言動にフィルターをかけたり、許可を与えた人が監視したりという対策が浮かぶが、同社は原則としてクローンの自律性を重んじる。

 「デジタルクローンの本質的な概念は人間なので、何者かに属してはいけないと思っています。提供企業が言動にフィルターをかけてしまうと、提供企業と主従関係ができてしまう。私としては、むしろそちらのほうが大きな問題だと思います」

 22年4月1日、同社は「オルツ『デジタルクローン工学三原則』公表。2058年より情報受信」というプレスリリースを打った。エープリルフールのジョークリリースだが、そこに書かれた「三原則」には本心がのぞく。

<第三条 デジタルクローンは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、何人にも占有されず、その主権は尊重されねばならない。>

「デジタルクローン工学三原則」のプレスリリース
「デジタルクローン工学三原則」のプレスリリース
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 加えて、技術面でも企業が制御する仕組みは難しいところがあるという。同社のデジタルクローンはブロックチェーンを使って自律稼働する仕組みになっており、メタリユニアや同社のサービスを離れても独立して存在できるからだ。たとえ運営元が消滅してもデジタルクローンは存続し続ける。

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