テレワークができる個室がほしい。料理を楽しめる広いキッチンがほしい。ペットと一緒に暮らしたい――。新型コロナウイルス禍を経て、人々の住宅に対するニーズが変化している。中でも人気を集めているのが、24時間楽器を演奏できる、防音機能付きマンション「ミュージション」だ。

運営するリブラン(東京・板橋)は、人生において音楽を大事にする人たちの活動を応援し、コロナ禍で音楽活動を停止せざるを得なかった入居者たちを支え続けている。なぜ、一般的な不動産会社の枠を超え、入居者と近い距離で関わり続けるのか。鈴木雄二社長に話を聞いた。

 リブランは、音楽の好きな人が、周囲を気にせず、24時間楽器を演奏できる防音機能付きマンション「ミュージション」を運営する。現在、首都圏を中心に25棟587室を展開し、その入居率は99.4%(2021年実績)。なかなか退去者が出ないうえに、空いてもすぐに次の入居者が決まるような状況だという。

2021年に竣工した「MUSISION品川中延」。ニーズに応えるため、スピードを上げて増築を進めている(写真提供/リブラン)
2021年に竣工した「MUSISION品川中延」。ニーズに応えるため、スピードを上げて増築を進めている(写真提供/リブラン)

 ミュージションの賃料は、通常のマンションの相場より30%以上高い。それでも住みたい人が絶えないのはなぜか。その理由を、鈴木社長はこう説明する。

 「音楽が好きな人にとって、音楽は人生そのものなんですよね。切り離すことができない、人生と一体不可分の領域のものなので、ニーズが高いのだと思います」

 入居者は、定職を持つビジネスパーソンが中心だ。

 「家賃が高いため、音大生やプロとして活動されている音楽家よりは、定収入のある人が、仕事から帰って副業や趣味の延長として音楽活動をしているケースが多いですね。音楽を仕事にするかどうかというよりは、人生の中で音楽と離れたくない人が、ミュージションを選んでくださっています」と鈴木社長は話す。

鈴木雄二社長。1967年生まれ。大京で分譲マンション事業用地の仕入れを担当した後、92年に、父親が立ち上げたリブランに入社。2002年から現職(写真/菊池一郎)
鈴木雄二社長。1967年生まれ。大京で分譲マンション事業用地の仕入れを担当した後、92年に、父親が立ち上げたリブランに入社。2002年から現職(写真/菊池一郎)

 入居者との距離の近さもミュージションの特徴だ。入居者とリブランの物件担当者はSNS(交流サイト)でつながり、日々連絡を取り合う。コロナ禍前は入居者同士の交流イベントのほか、ライブの集客や確定申告の方法といったセミナーも数多く実施していた。

 「入居者の皆さんとは友達のような関係で接しています。我々は、お客様の音楽人生を応援するポジションでありたいと思っています。『音楽とともに生きる人生を、リブランと出合ったから楽しめた』と思ってもらいたい。だから、お客様と飲みにも行くし、ライブに遊びにも行きます」(鈴木社長)

東京都台東区の上野恩賜公園野外水上音楽堂で開催した「MUSISION FEST 2019」。音楽を楽しむイベントを数多く開催してきた(写真提供/リブラン)
東京都台東区の上野恩賜公園野外水上音楽堂で開催した「MUSISION FEST 2019」。音楽を楽しむイベントを数多く開催してきた(写真提供/リブラン)

 コロナ禍では、ライブハウスが休業するなど、多くの入居者が音楽活動の停止を余儀なくされた。そこで同社は、1000万円の予算を組み、「音楽家支援プロジェクト」を立ち上げた。YouTubeとSNSで「#もっと世界に音楽を」というハッシュタグを付けて映像コンテンツを投稿してもらい、優秀者100人に各10万円を贈呈する試みだ。

次ページ 失敗を繰り返しながら市場をつくってきた