東京・御徒町のワイナリー「葡蔵人(ブックロード)」。ブドウ畑から離れた都会の真ん中で、なぜワインを醸造するのか。「都市型ワイナリー」には、人口が多く、愛好家も多く集まる都市部ならではの魅力があるという。葡蔵人の創業者でワイン醸造家の須合美智子氏に話を聞いた。
日本のワイナリーと聞くと、山梨県、長野県を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。実際、国産ブドウを原料とした「日本ワイン」の生産量1位は山梨県、2位は長野県となっている。
ブドウの生産地の近隣にワイナリーを設置し、醸造したほうが効率的だ。そのため、日本の多くのワイナリーはブドウ畑の中にあるか、隣接している。しかし、そんな常識を覆し、2017年に都心の真ん中、東京都台東区・御徒町に小さなワイナリー「葡蔵人~BookRoad(ブックロード)」が誕生した。
建設業、飲食業を展開するK’sプロジェクト(東京・台東)の新規事業として立ち上がったワイナリー。当時、同社のパート社員だった須合美智子氏が責任者に立候補した。

ワインの知識は一切なかった須合氏。だが、「新しいことに挑戦したい」という強い思いに突き動かされ、手を挙げたという。責任者となり、山梨県のワイナリーで1年間の修業を積み、ワイン醸造家となった。
一般的にイメージされる山梨県や長野県ではなく、なぜ東京都心にワイナリーを作ったのだろうか。
「K’sプロジェクトは2005年に東京都台東区で創業しました。それから13年たち、ワイナリーの新規事業の立ち上げが決まった際に、台東区に恩返しができたら、と考えたからです」と須合氏は語る。
しかし、ワインを醸造するための機材を設置できる広い土地はなかなか見つからなかったという。他の区でも探そうかと諦めかけたとき、たまたま現在の物件と出合った。JR御徒町駅から7分ほど大通りを歩き、小道を少し入った場所にある。東京のど真ん中で、アクセスは抜群だ。ワイナリーとしては小規模の、10坪の3階建ての家屋をまるごとワイナリーとして改造した。
「『葡萄』『ワインの蔵』『お客様』の3つの意味を込めて、葡蔵人(ブックロード)と名付けました。あとから、読みやすいようにと考えて『BookRoad』という英字の名前もつけましたが、ロードには人と人、あるいは人とワインがつながる道、といった意味も込めています」
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