幸せな未来に進むために努力する

未来は予測できないというお話になりましたが、あえて質問させてください。AIの進化は、人々を幸せにするでしょうか。それとも、不幸にするでしょうか。

大澤:この質問の答えは僕の中では決まっていて、両方あり得ます。AIは人を幸せにすることもあるし、人類を滅ぼす可能性もある。研究者なのでポジショントークとして「AIは人類を幸せにしますよ」と言うことはできます。でも、現実問題として、例えばドローンに顔認証機能とピストルを搭載すれば、人を殺せてしまうわけですよ。今の技術の可能性を考えたら、絶対にどちらにも進めるというのが事実。危険な道に進むリスクから目を背けてはいけないと思うんです。

 だからこそ、研究者や技術者は、人を幸せにする未来のほうに進めるように、これからの過程を進まなければならない。それが僕らの責任だし、そのために意志を持って努力するしかないと思っています。

大澤氏は汎用人工知能を研究し、みんなが「これはドラえもんだ」と認めてくれるロボットの開発を目指す(写真=竹井俊晴)
大澤氏は汎用人工知能を研究し、みんなが「これはドラえもんだ」と認めてくれるロボットの開発を目指す(写真=竹井俊晴)

窪田:これはAIに限った話ではないですよね。これまでに人類が発明した火や電気も、幸せと不幸の両面を持っています。技術は必ず二律背反の特性を持っているからこそ、技術者は誰のために、また何のために作る技術なのかを常に考えないといけないと思っています。僕は、誰かの心を感動させる、心を震わせるために技術を使いたいと考えています。

お二人が話す、人を幸せにする技術、心を震わせる技術とはどんなものでしょうか。

窪田:今、AI特許を活用して研究にあたっているのが、認知症の領域です。まだ解明されていないことの多い認知症において、脳細胞の分類をより精緻にする研究をしています。認知症の原因となる細胞のパターンを見つけることができれば、予防が可能だと考えています。

 認知症や介護の領域に興味を持ったのは、介護施設にいた祖母の影響です。寝たきりで動けないために、脚が壊死(えし)してしまったんです。症状が進行しないように、脚を切断するしかなかった。それを目の当たりにして、介護領域で何か自分にできることはないかと考えてきました。

 介護の本質的な課題を理解するために、さまざまな人に話を聞きました。まず介護職員に話を聞くと、給与が安く、激務だと言う。施設長が悪いのかと思って話を聞くと、介護保険制度があるので、給与を上げるのは難しい、医者が面倒をみないから悪い。そう言うので、医者にも話を聞きました。すると、自分たちは訴訟と隣り合わせの中で、日々命の重さと闘っているんだ、官僚に言ってくれと言う。官僚に聞くと法律を作っているのは政治家だと言う。そうか、悪いのは政治家だったのか! と政治家に話を聞くと、政治家を選んでいるのは国民です、と言われたんですね。

 そこで合点して、そうか、自分は祖母の介護に直面し、誰かのせいにしたかったけれど、結局自分の問題だったと気づきました。

「おばあちゃん子だった」と話す窪田氏。祖母が介護施設で過ごした経験から、介護や認知症の課題をAIで解決したいと考えるようになった(写真=竹井俊晴)
「おばあちゃん子だった」と話す窪田氏。祖母が介護施設で過ごした経験から、介護や認知症の課題をAIで解決したいと考えるようになった(写真=竹井俊晴)

大澤:みんなが人のせいにして、結局誰も自分の問題として改善しようとしないという事例はよくありますよね。先ほどの期待していた未来がこなくて絶望したという話ともつながりますが、それをアクションにまでつなげるのはすごいですね。画期的なループだなと思って感激しました。

 僕も児童ボランティアの活動をしていたことがあり、介護や保育の課題について考えたことがあります。介護も保育も人手不足で過酷な現場だといわれています。大変だといわれる分野って、いつも人と関わる現場なんですよね。人々はテクノロジーのおかげで、短い時間、少ない労力で富を生み出せるようになりました。でも、結局人と関わるところは効率化されていません。メールや電話、Zoomなどのツールにイノベーションが起こったけれど、100人の介護や保育を1人でできるといったテクノロジーはないわけですよ。人とかかわる仕事は、非効率的で嫌な仕事であり、弱者に押し付けるものだという傾向になってきていると感じるんですね。

 そうだとしたら、大変なことです。効率化が進めば進むほど、人に寄り添い、人と関わる仕事が義務的で誰かに押し付けたい仕事になってしまう。そんな未来になったら僕は嫌だなと思いました。

 だから、人と関わることが、テクノロジーと一緒にスケールする世の中にならないといけない。どうすればいいんだろう、と思ったときに、「あ、ドラえもんをつくればいいんだ」と気づいた。ドラえもんはのび太という1人にとことん寄り添い、1人を幸せにしたロボットです。全員にドラえもんがいれば、きっと介護や保育の課題も解決できます。そうか、介護や保育について一生懸命考えなければならない気がしていたけど、僕はドラえもんに集中すればいいんだ、と思って、窪田さんとは違うストーリーでループして、自分に戻ってきました。

窪田:それはつまり、一人ひとりに最強に寄り添った、「パーソナライズドAI」ということですよね。これまでのAIは、大量のデータから最適解を見つけ出すものでした。そうすると、どうしてもそれに合わない人が出てくる。それが今のAIの本質的な課題だと思うんですよね。ちょうどパーソナライズドAIの重要性を考えていたので、ドラえもんという文脈で考えると、すごく納得できました。

大澤:前回、日本はリアルデータが強い、それが海外に勝つための突破口になるというお話をしました。僕が考えているドラえもんは、人と寄り添いながら進化し、最終的に「30年一緒に過ごしたこのパートナーが自分にとってのドラえもんだ」と感じてもらうことを目指しています。

 つまり、パーソナルなリアルデータが、人ごとに蓄積されていくんですよね。そこから僕らはパーソナライズドAIをつくり、それが最終的に人を幸せにするという結果を導いてくれるのではないかと思っています。

3回にわたり、大変興味深いお話をお聞かせいただきました。ありがとうございました。

第1回・GAFAMも追わないところにチャンスが潜む「汎用型AI」とは
第2回・なぜ欧米諸国に負ける? AI弱者日本の不都合な真実
第3回・AI研究者たちの決意「人を幸せにする未来のために努力する」(今回)

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