脱却の糸口はどこに

化粧箱に入れられた1箱1万円(税別)のレンコン「柳蓮田蓮根 鍬初」
化粧箱に入れられた1箱1万円(税別)のレンコン「柳蓮田蓮根 鍬初」

ある意味、資本主義経済の中で農家だけが共産主義的な流れに取り残されていると感じました。しかしながら、野口農園(茨城県かすみがうら市)では、レンコン農家としてのブランド化に成功しています。その経緯について教えていただけますか。

野口氏:私の実家が持つ土地は水田には向かず、安価なレンコンを栽培することで何とか生計を立てている状況でした。父からは「レンコンなんて貧乏人のやる仕事」だと口癖のように伝えられ、圧倒的な劣等感、報われない気持ちがレンコンに対してありました。反発や挑戦、リベンジの気持ちがあり、どうにかして他の人からも求められる作物にしたいとブランド化に向けての試行錯誤を始めました。

他の農作物でも、ブランド化は可能でしょうか。

野口氏:可能だと思っています。

 まず、前提として、現在、消えた中間層といわれますが、日本国内で富裕層と低所得層の格差が広がっています。それであれば、農家もそれに応じたマーケットをつくっていくべきです。手間をかけて特別な味を作っているのであれば、高くても売れる仕掛けを作らなければなりません。

 私は同一商品の値付けで価格差が大きくなってもいいと考えています。例えば小松菜が1束5000円になってもいい。それがばかみたいに高いと感じるのであれば買わなければいいだけの話です。逆にお金をかけてでも質が良くおいしいものを買いたいという人は一定数います。また、農家視点でも大量生産せずにもうけが出ますし、より味を極めることができる。結果、それがブランド化につながります。

 逆に、小松菜が1束100円である理由を説明できる人はいません。フランス産ホワイトアスパラガスは1キロあたり5000円、いや6000円でも取引されています。その裏側にあるのはブランドという情報の差なんです。品質管理において日本産とフランス産で大きく差があるわけではありません。でも日本産の野菜はなかなかこの価格にはならない。安く売りたたかれてしまう理由は、生産国のブランドだけです。

逆に農家であっても情報を武器にすれば、搾取構造から抜けられると。

野口氏:残念ながら有機農法やバブル景気など社会的な構造変化やニーズの変化だけでは農家は幸せになりませんでした。そうであれば、社会を変えるのはビジネス起点なのではないでしょうか。現在、5000円のレンコンではなく、5万円のレンコンの販売にも挑戦しています。既にオーダーは複数いただいているんですが、5万円の価値に見合うものができるまで出荷を待ってもらっている状況です。

値段だけで言うと5万円。フルーツなら聞いたことがありますが、野菜としては大きな挑戦ですね。

「柳蓮田蓮根 國之介」 現在、1本5万円という価格での販売に挑戦。野口氏いわく、反響も大きいという
「柳蓮田蓮根 國之介」 現在、1本5万円という価格での販売に挑戦。野口氏いわく、反響も大きいという

野口氏:ただ、比較的高級なフルーツの価格も、昭和の価値観を引きずり過ぎている気がしますね。さっきも言ったように、現代社会は富裕層と低所得層の格差が広がっています。農業もこの社会構造に適合するようなマーケットを作っていくべきでしょう。

 ですが、現状の農業はそうはなっていません。スーパーやデパートで産地の顔が見えると言っていても、その裏側にある農家の努力や生産価値がないがしろにされてしまう構造となっています。車で言えば、スーパーやデパートはディーラーでしょう。農業界では、ディーラーが、ハイブリッドカーもスーパーカーも軽自動車も同じ「車」として取り扱う状況なのです。

 もちろん安価な価格帯の商品が必要ないとは言いません。社会を回していく上では絶対に必要です。食料を手に入れられずに餓死しなければならないような状況は絶対にあってはいけないことです。ですが、日本の農業界は、その高い品質の野菜を、あまりにも長く、あまりにも安価に売り続けてしまったことで、今回のような深刻な状況をつくり上げてしまったのではないかと考えています。この状況を打破するためには、農産物の価格を見直し、令和時代の価値観の中でラグジュアリーからコモディティーまでの重層的なマーケットを構築していくこと。

 そして農家自体が自立してビジネスを行うこと。そうすることで、日本産農産物の海外輸出への恒常的な発展の道筋もつくり出すことができるはずです。

『「やりがい搾取」の農業論』野口憲一著
『「やりがい搾取」の農業論』野口憲一著
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