想像してきたドラえもんの世界にたどり着く

AIを活用したさまざまなシステムやロボットが日々製品化されています。そのほとんどが特化型ということですが、私たちの身の回りに「汎用人工知能」と呼べるものはありますか。

大澤:その質問に、研究者はお答えすることができません。なぜかというと、汎用型の定義がまだないからです。「これが汎用人工知能である」という決定版が存在しない。なので研究者は、「この論文では、このように定義する」と前置きした上で、それを追い求めているのが現状です。

ビジネスの世界ではいかがですか?

窪田:おっしゃる通りで、AIそのものの定義すらまだ曖昧なので、ビジネス分野の汎用型も当然、定義がありません。にもかかわらず、すごく不思議なんですが、空想世界の身近な存在でそれを理解しているんです。それが「ドラえもん」です。ドラえもんを知らない日本人はほぼいないと思います。僕たち日本人は文化的に未来技術を想像しやすい環境にいたはずで、文化的に汎用型とは何かを知っています。ほかにも、「鉄腕アトム」や「攻殻機動隊」などパッとイメージできるものがあります。でも、学術分野では定義が追いついていない。むしろ、壮大すぎて永遠に定義できないのかもしれませんね。

 ビジネスの観点でいうと、「知覚しているけれど現実には落とし込めていない」といったギャップにこそ潜在的ニーズがあると言えます。人類がまだ見たことのない景色や、誰も味わったことのないものを実現することに、ビジネスチャンスが眠っていると思っています。

この日が初対面だった2人。「汎用人工知能」に懸ける思いがシンクロし、対談はどんどん熱を帯びていった(写真=竹井 俊晴)
この日が初対面だった2人。「汎用人工知能」に懸ける思いがシンクロし、対談はどんどん熱を帯びていった(写真=竹井 俊晴)

大澤:まさに、僕は博士論文で「みんなが想像してきたけれど、まだたどり着けない“あれ”を汎用型と位置づけませんか」と定義してスタートしました。スマホやインターネットは、まったく想像もしていなかったところから生まれました。つまりテクノロジーのどんでん返しがあったと思います。でも、汎用型は、みんなが想像していた“あれ”が目の前に表れてきた。そういう多くの人が想像しやすい、あるいはさんざん想像してきたものが世の中に出てくるという特性があります。「汎用人工知能」という名前だとまだみんなイメージできなくても、僕らには「ドラえもん」という心強い味方がいます。

 では、ドラえもんをつくるとはどういうことかというと、想像もしなかったようなテクノロジーで世の中を変えるのではなく、みんなが想像していたあの世界にやっとたどり着く、というイノベーションなんです。それが今までのテクノロジーとは性質が異なる点です。

 そこで「今、汎用型といえるものはありますか」という質問に立ち返ると、僕の研究の定義では、まず「つまり、皆さんが汎用人工知能だと思っているものはありますか?」と質問することから始まります。そうすると、その答えは、人によって変わってくるんです。例えば、aibo(アイボ)やLOVOT(ラボット)、Alexa(アレクサ)を見て、「中で特化型のプログラムが動いているな」と僕なんかは思うのですが、そう思ってしまうとこれは汎用型ではないということになります。一方で、同じaiboでも、「すごくかわいい。私のことを愛してくれている。私のことを何でも分かってくれる」と汎用的な存在に感じ取る人もいる。そういう人にとっては、汎用型が完成しているとも言えなくはないでしょう。

 このように僕の定義では、人を介してしか評価や理解ができません。みんながこのロボットには心があって汎用型だと思えるにはどうすればいいだろう、ということを日々考えて、研究をしています。

ありがとうございました。かなりAIについての理解が深まりました。第2回では、世界から見た日本のAI研究の状況と、海外企業に勝つための方法についてお聞きします。

第1回・GAFAMも追わないところにチャンスが潜む「汎用型AI」とは(今回)
第2回・なぜ欧米諸国に負ける? AI弱者日本の不都合な真実
第3回・AI研究者たちの決意「人を幸せにする未来のために努力する」

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ウェビナー開催、「1時間で完全理解 『量子コンピューター』は何がすごいのか」

 岸田内閣の「新しい資本主義」の重点投資に組み込まれた量子コンピューター。既存のコンピューターよりも処理速度が速いといわれる量子コンピューターですが、その技術や、我々の社会や経済をどう変える可能性があるのかを理解している人はまだ少ないのではないでしょうか。

 日経ビジネスLIVEでは9月13日(火)19:00~20:00に「1時間で完全理解、 『量子コンピューター』は何がすごいのか」と題してウェビナーをライブ配信する予定です。登壇するのは、住友商事で新規事業創出を担うQXプロジェクト代表・寺部雅能氏と、業界動向に詳しい野村総合研究所IT基盤技術戦略室エキスパート研究員の藤吉栄二氏。量子コンピューターの技術的な特徴から、ビジネス活用の最前線まで分かりやすく解説します。

■開催日:2022年9月13日(火) 19:00~20:00(予定)
■テーマ:1時間で完全理解、「量子コンピューター」は何がすごい?
■講師:寺部雅能氏(住友商事QXプロジェクト代表)、藤吉栄二氏(野村総合研究所IT基盤技術戦略室エキスパート研究員)
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