汎用性のあるものはお金にならない?
ビジネスの分野でも汎用人工知能を専門とする企業は少ないのでしょうか?
窪田:非常に少ないです。AIは大きく、AGIとANI(Artificial Narrow Intelligence)と呼ばれる分野に分類されます。AGI「汎用型」と対比して、ANIは「特化型」と言われており、例えば画像認識、音声認識など、ある1つの領域に特化したAIを指します。僕の印象だと、日本のAIスタートアップなどが開発している分野はほとんどが特化型ですね。GAFAM(グーグル、アップル、メタ=旧フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)も含めて、特化型ばかり研究開発しています。
でも、ANIとAGIって馬車と自動車くらい違うと僕は思っているんですよ。今、人類はANIという馬車を見つけ出して、「歩くよりずっと速いよね! 便利だ!」と言っているような状態。でも、自動車が生まれた瞬間のほうが世の中は劇的に変化しました。単にスピードが速くなったということ以上に、流通をはじめ、あらゆる産業が変わりました。馬車の時代から自動車の時代が来ることは明確なのですが、まだそこに賭ける人が圧倒的に少ないのです。

大澤:研究者は一生懸命AIをカテゴライズしようとするのですが、今のAIはどう切り分けても結局、特化型に位置づけられてしまう、という現状があります。僕は汎用型の研究者なので、その位置づけを一生懸命伝えようとするのですが、世の中の人はたいてい、「特化型はお金になるけれど、汎用型はお金にならない」と言う。お金にならないからやるべきではない、と揶揄(やゆ)されるんです。
でも、世の中を見ると、汎用的なものがお金にならないわけがないんです。スマートフォンもインターネットも、いろいろと使えるから世の中を大きく変えてきた。汎用的なもので僕らはどんどん大きく、豊かになっているのに、AIの分野になると「特化型がビジネスになって汎用型はビジネスにならない」と言われる。それはおかしいと思っています。
ただ、そこにはまだ見えていない軸があって、汎用型・特化型と直交した、「現在志向型」と「未来志向型」という軸があるのではないか、と。特化型はビジネスでも研究でも現在志向型の視点なので、お金になる。一方で、汎用型は未来志向ばかり研究するから、すぐにはお金にならないという話だと思います。でも、現在志向型の汎用型、みたいなものがあるはずなんですよ。それを真剣に考えて見つけた人が、次のビジネスや研究を塗り替えていくはずです。「それって何だろう?」と考えていくことが僕は大事だと思っています。

窪田:今の話にものすごく呼応するところがあって、僕もまさにそういうことを日々考えているんですよ。未来を希求しながら現在に転換させるために、汎用型のライブラリーみたいなものを作って、それを現在の産業に適用させ、電力や医療といったそれぞれの子会社を作っていこうと思っているんです。
そうすると、未来志向でありながら現在志向に落とし込んで、産業を発展していけるはずです。最初に汎用型を設計した上で、特化型に落とし込んだ社会実装が可能で、ライブラリーの研究を進めると現在利益と未来利益が同居できると考えています。
大澤:面白いですね。汎用型って、汎用性の本質を見極めてあらゆるものへ実装する研究者と、人間みたいな人工知能を目指そうという研究者がいて、僕はその両方の研究をしています。窪田さんは前者の、汎用性の本質は何かを突き詰めようとされているということですね。
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