2Dアニメはもう終わりだと思っていた

そんな犬王を演じたのは、バンド「女王蜂」のアヴちゃん。圧倒的な音域の広さと神秘的なライブが特徴的ですよね。また、友魚を演じた森山未來さんは俳優だけでなく、ダンサーとしても活躍されています。本作においてどちらもハマり役だと感じました。

湯浅監督:強烈なパワーを発する犬王が、対照的な友魚というパートナーと出会うことで一気に盛り上がっていく。そうしたキャラクター像からたどり着きました。どちらともアグレッシブな表現者という視点があり、声だけでなく歌も頼むということからもベストな選択だったと考えています。

 アヴちゃんは『DEVILMAN crybaby』に声優として出演してもらった際に接点があったのですが、今回は主人公ということで意気込みがすごかったです。エネルギッシュかつ、あふれ出る才能は、犬王が乗り移っているかのようでした。また、森山さんも琵琶法師になり切るために琵琶の自主練習に励むほど役にのめり込んでくれていました。配役が決まるまでは制作チーム内でキャラクター像のすり合わせで議論しがちでしたが、決まってからは皆が同じ方向を向いた。それぐらい作品を引っ張っていってくれました。

海外では、本作は「ロックオペラ」だと評されています。湯浅監督が本作で思い入れを持って取り組んだ部分など教えていただけますか。

湯浅監督:ミュージカル映画は通常、音楽を先に作り映像を後から作ります。でも、今回は、先に振り付けとなる絵コンテや動画を作って音楽家の大友良英さんに提供したんです。具体的な言葉での制作指示は伝えず、その絵にピタリと合う曲を作ってもらったのです。そして、そこからアニメを作る流れで、映画を完成させました。

(写真:木村輝)
(写真:木村輝)

なかなか型破りで、作り直しのリスクもある方法ですね。

湯浅監督:ある意味、犬王のライブ感は制作の現場でも体感していました。(笑)

2人の野外ライブやパフォーマンスなど、本作でも湯浅監督ならではの静と動を使い分けたシーンが象徴的でした。こういったアニメーション表現を追求していった源泉は何なのでしょうか。

湯浅監督:そうですね。ピクサーが出てきた20~30年前、僕は2Dアニメーションってそのうち無くなるのだと思っていたんですよ。3Dが台頭してきた時代だったので。でも、だんだんと2Dやジャパニメーションのほうが良いと再評価されてきた。

 2Dで絵を手描きするのだから、モデルがそのまま無機質に置かれているようなアニメーションにはしたくないと思っています。何かの感情を持ってこの絵が描かれている、それが見ていて伝わるということが、表現には必要です。

 それは何も主人公だけの話ではありません。犬王のパフォーマンスを見物しに来る人や、群衆に紛れる人。名前もない一人ひとりにストーリーがある。この人は仕事帰りに立ち寄って見ている、とか、この人は離れたところから旅して来ている、など、それぞれにストーリーがあって、それらを描こうとしたんです。

時代と生きた一人ひとりにストーリーがある (c)2021 “INU-OH” Film Partners
時代と生きた一人ひとりにストーリーがある (c)2021 “INU-OH” Film Partners
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語られなかった大多数の人々にもそれぞれストーリーがある。そんな平家物語ともつながるテーマ性を感じます。

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