NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、テレビアニメ『平家物語』(『犬王』は「平家物語」に連なる物語)など、昨年から日本の中世が舞台となった作品が立て続けに発表されている。くしくも同時期に公開となったのが、湯浅政明監督の劇場用長編アニメーション『犬王』だ。南北朝から室町期に活躍し、世阿弥と人気を二分したといわれている能楽師・能作者の犬王。彼を題材とした古川日出男氏の原作小説『平家物語 犬王の巻』を華麗なアニメーションで映像化。足利義満から高く評価されていた犬王だったが、彼の書いた作品は現存していない。そんな彼の絶頂期を描いた本作は、ミュージカルエンターテインメントでありながらファンタジー要素もある大人向けの映画だ。
『DEVILMAN crybaby』や『ピンポン THE ANIMATION』、『夜明け告げるルーのうた』など国内外のアニメファンを魅了する独特の映像表現を得意とする湯浅監督。彼によって切り取られた室町時代の世界観や、犬王像はまさに600年前のロックオペラだ。本作公開直前の湯浅監督に、制作の裏側や、本作にかける熱い思いを聞いた。

犬王って何者?
映画の主人公、能楽師・能作者の犬王。本作や、古川日出男氏の原作小説『平家物語 犬王の巻』で初めて知ったという人も多いと思います。この犬王とはどういった存在なんでしょうか?
湯浅政明監督(以下、湯浅監督):室町時代を舞台に、絶大な人気を集めたものの、語り継がれなかった異形の能楽師が犬王です。この作品は、犬王が盲目の琵琶法師・友魚(ともな)と京の町で出会い、伝統芸能を起点としながらも、型破りでド派手なパフォーマンスを披露。彼らに呼応するかのように熱狂する民衆とともに、時代を駆け抜けた2人の半生を描いた作品です。
このオファーが来て、監督はどういうイメージづくりをしましたか?
湯浅監督:企画書を初めて見たときは「能楽師……。アニメにはどういう切り口がふさわしいかなぁ」と、考えていきました。企画書にはグラムロックやパンクロックなどの実写音楽映画のポスタービジュアルが同封されていたのですが、現代のアーティストに対する熱狂やのめり込みに似たようなものを、室町時代の能楽師も得ていたのではないか。そんなふうに描けたら面白くなると感じ、引き受けました。
琵琶法師が語った平家物語は600年経過した現代でも語り継がれています。でも、それを語ってきた琵琶法師や、演じてきた犬王については具体的な歴史が紡がれてこなかった。時代を経て古川さんが小説にし、僕がアニメーション映画にする。そのこと自体に意義があると感じました。
世間からつまはじき者とされていた犬王と友魚の2人。彼らが出会ったことで、既存の価値観が壊れ、何もない2人から人気の演者に一気に成り上がります。ただ、彼らは結果的には次の時代では語られない存在となってしまいました。その理由はどこにあるのでしょうか。
湯浅監督:芸能のことを記録するという考え方は、近年になって生まれた考え方だと思います。どうやって名前を残していくか、自分の芸を誰かに継承していくことは、芸を極める上で重要ではない。むしろ、周りの人々を巻き込んで熱狂の中に呼び込んでいくほうが価値あることだったのではないでしょうか。
犬王のひたむきに前に進む姿勢や、逆境があってもなりたい自分に向かって突き進んでいくところが自分にも刺さりましたし、そうありたいなぁと思いながら映画を作っていきました。
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