情報を拡散したくなる商品とは一体、どのようなものなのか。バズらせるため、売れる商品を作るためには一体、何が必要なのか。元バンダイのヒットメーカー高橋晋平氏が「バズる」「売れる」アイデアや商品について語る。

「面白い!」と言いたくなる「意外性」

 ポリエチレン製緩衝材「プチプチ」(川上産業の商標登録商品)は、梱包材としての利用はもちろん、プチプチの気泡をつぶして楽しむ人も少なくない。もしあの「プチプチ」を永遠にプチプチし続ける(つぶせる)ことができたなら――。そんなひらめきから開発・発売されたのがバンダイの「∞(むげん)プチプチ」だ。

 「∞プチプチ」はバンダイが「プチプチ」の製造元である川上産業(東京・千代田)の協力を得て開発したヒット商品で、発売直後から話題になるなど、国内外でシリーズ累計335万個以上を売り上げた。

 商品が発売されたのは、「バズる」(短期間で爆発的に話題が広がり、ちまたを席巻することを指すインターネット上のスラング)という言葉も、ツイッターもまだ認知されていなかった頃(2007年)の出来事である。

バンダイが2007年に発売した「∞プチプチ」(左)とその後シリーズ商品として発売された「∞プチプチAIR」(右) ©BANDAI ※日本特許出願済・日本意匠出願済/「プチプチ」「∞プチプチ」は川上産業の商標登録商品
バンダイが2007年に発売した「∞プチプチ」(左)とその後シリーズ商品として発売された「∞プチプチAIR」(右) ©BANDAI ※日本特許出願済・日本意匠出願済/「プチプチ」「∞プチプチ」は川上産業の商標登録商品

 大きさは高さ44×幅41×奥行き18㎜の手のひらサイズ。あの特徴的なプチプチした触感を正確に再現し、文字通り無限にプチプチつぶせることから「∞プチプチ」と名付けられた。本家のプチプチが1万粒に1つの割合で「ハート形」の気泡を交ぜている遊び心を踏襲し、「∞プチプチ」は100回に1回の割合でおならやセクシーボイス、犬の鳴き声など、「プチ」以外の音を流すようにした。この仕掛けも消費者は喜んだ。

 「何かがバズるのは、誰かが『発信したい』と思うからであり、発信したいと思うものとは、『共感』できるものです」。こう語るのはおもちゃクリエーターの高橋晋平氏。

 高橋氏は「∞プチプチ」の開発者だ。バンダイで長く玩具開発に携わったのち、2014年に独立。現在はおもちゃやゲーム、アイデア雑貨、遊び系Webサービスなどさまざまな企画開発に携わる。

ウサギ代表取締役高橋晋平氏。おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年、バンダイに入社。「∞プチプチ」で第1回日本おもちゃ大賞を受賞。同商品は国内外でシリーズ累計335万個以上を売り上げるヒット作となる。14年、おもちゃやゲーム、各種サービスの企画開発に手がけるウサギを設立。発想セミナーやワークショップなどでも講師を務める。近著にアイデア発想のヒントを集めた『1日1アイデア 1分で読めて、悩みの種が片付いていく』(KADOKAWA )がある。(写真:鈴木愛子)
ウサギ代表取締役高橋晋平氏。おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年、バンダイに入社。「∞プチプチ」で第1回日本おもちゃ大賞を受賞。同商品は国内外でシリーズ累計335万個以上を売り上げるヒット作となる。14年、おもちゃやゲーム、各種サービスの企画開発に手がけるウサギを設立。発想セミナーやワークショップなどでも講師を務める。近著にアイデア発想のヒントを集めた『1日1アイデア 1分で読めて、悩みの種が片付いていく』(KADOKAWA )がある。(写真:鈴木愛子)

 そんなアイデア発想の専門家である高橋氏は、商品がバズる条件は単なる共感ではないと指摘する。「共感できる違和感、共感できる新しさ、共感できる意外性というものを人は拡散する」と、共感+αが必要だと語る。

 例えば、かわいらしい犬の動画をSNS(交流サイト)にアップしても、それだけでは拡散は始まらない。そこに違和感、新しさ、意外性がプラスされると変化が生じる。犬の動画であれば、予想もしなかった動きやしぐさが加わることで、「この動き、かわいい!」と見た人の共感を呼び、思わず誰かに伝えたくなる。

 「∞プチプチ」はどうだったか。プチプチには梱包材なのになぜかつぶしたくなる楽しさがあり、一度つぶした後は捨てるしかなかったが、そこに、どんなにつぶしても元に戻る「∞プチプチ」が現れた。

 誰もが知っているプチプチだからこそ、「それって一体どういう仕組みで、どんな感触なんだろう?」と人々は興味をかきたてられた。それが「触ってみたい!」「この発見を誰かに伝えたい!」となって、人から人へと伝わっていった。

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