八王子や多摩地域の幹線道路を走っていると、1つの目立つ看板広告に目がいく。

たった1つの広告看板であれば、日経ビジネスPLUSで取り上げることはない。ではなぜ取り上げるのか。きぬた歯科の広告がここ数年、じわじわと増殖しているからだ。最近では首都高速から見える位置にも看板を多く出している。近隣地域であれば、まだ分かる。だが、この広告は西八王子からは程遠い品川などの都心、さらには埼玉や神奈川といった県外でも多く見かける。一度目にすると、気になって仕方がない。インターネット全盛ではあるが、アナログな街頭看板を数多く掲げる戦略も謎だ。そんなことを考えていると、もはや運転に集中できない。
当たり前だが広告費用はタダではない。これだけの枚数の広告掲載を行い、維持し続けているとしたら、かなりのコストとなるだろう。厚生労働省の「医療施設動態調査」によると、2021年末時点における全国の歯科医院の数は6万7860。その数は、国内のコンビニの店舗数5万5956(日本フランチャイズチェーン協会公表、22年1月時点)を1万以上も上回る。インプラントという自由診療の領域を主業に据えるとはいえ、歯科医院はコンビニを超える数が全国にひしめく激戦市場でもある。そんな厳しい戦いを強いられる業界において、看板を乱立させる戦略に費用対効果があるとは到底思えなかった。
だが、真実は本人しか分からない。この謎を解明するため、私は西八王子駅前へと向かった――。
西八王子駅の南口ロータリー沿いに、きぬた歯科はある。00年にインプラント専門の分院としてオープン。手術が可能な部屋を3つ持つのは、歯科医院としては珍しいそうだ。ただ、過剰なほどの看板広告を打ち続けられるほどの規模には見えない。早速、「看板の人」でもある、きぬた泰和院長に増殖する看板の数を尋ねると「おそらく…300以上」という。ざっくりとした数字が出てしまうくらい、その数は多い。
なぜ、細かい数値を把握しないレベルにまで広告看板を出すことになったのか。そのきっかけをきぬた氏は「NHKの大バッシングにある」と説明する。
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