前編「旅館の役割は? いかに地域に消費を生み出すか―旅館経営者対談」では、2022年3月に千葉県木更津市にオープンした「鳥居崎倶楽部 HOTEL&SEAFOODS」のコンセプトや、旅館が地域に果たす役割について語り合った、旅館王の代表取締役・青木一氏と、亀山温泉ホテルの3代目・鴇田(ときた)英将氏。新型コロナウイルス禍では、旅館は大きな苦境に立たされた。後編では、コロナ禍をどう乗り越えたのか、また、旅館業に携わる人材をどのように採用・教育しているのか、語り合う。
![[写真右] 青木一(あおき・はじめ)氏 旅館王 代表取締役 1974年、千葉県御宿町で生まれ。木更津市で育つ。旅館の現場で2年間働いた後、旅館の集客マーケティング専門会社に15年間勤務。2009年に旅館運営専門のコンサルタント会社、旅館王を設立。11年に「箱根料理宿 弓庵」を開業、22年には「鳥居崎倶楽部 HOTEL&SEAFOODS」をオープンした。/ [写真左] 鴇田英将(ときた・ひでまさ)氏 亀山温泉ホテル 代表取締役 1979年、千葉県君津市生まれ。成蹊大学卒業後、群馬県の伊香保温泉で修業。オーストラリアでのワーキングホリデーを経て2008年に実家が経営する亀山温泉ホテル(君津市)に入社。18年に父の後を継ぎ、3代目の代表取締役となる。(写真:鈴木愛子)](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/plus/00037/031000019/p1.jpg?__scale=w:500,h:316&_sh=0c50170f03)
2020年の感染拡大時には、多くの旅館が苦境に立たされました。当時の経営状況について教えてください。
青木一氏(以下、青木):旅館王は今、神奈川県箱根町の「弓庵(きゅうあん)」と、千葉県木更津市の「鳥居崎倶楽部 HOTEL&SEAFOODS」の2軒の旅館を運営しています。新型コロナの感染拡大が始まった2020年時点では弓庵1軒のみで、改修工事を予定していました。このタイミングで設備投資をするべきか悩みましたが、思い切って本館7室、別館3室のうち、本館の7室を休業し、工事を行うことにしました。
稼働を開始してからは、リピーター客に助けられました。また、弓庵は「人に会わない宿」というコンセプトを打ち出していたんです。食事もお風呂も室内なので、人と会うことなく静かに過ごしていただけます。コロナ禍を見越していたわけではありませんが、結果的にこのコンセプトのおかげもあり、コロナ禍でもお客様が途切れることはなく、売り上げは横ばいでした。
ただ、千葉県木更津市の再開発プロジェクトの一環として建設中だった鳥居崎倶楽部は、プロジェクト全体の判断として、オープンを1年間遅らせることになりました。
鴇田英将氏(以下、鴇田):亀山温泉ホテルは大打撃でした。緊急事態宣言が出された20年の4月から2カ月間は完全休業を決めました。19年は大型台風の被害もあり、20年5月期の売り上げは前年から30%ほど減少し、過去最低に。21年もまん延防止措置があったので、アクセルを踏もうと思ったらまたブレーキをかけられる、といったことの連続でしたね。
でも最初の緊急事態宣言時は国の雇用調整助成金もあったので、従業員たちを休ませる判断もできましたが、出社しみんなでできることに取り組みました。まず、老朽化した建物をできる限り修繕しようと考え、自分たちでペンキを塗ったり、壁紙を貼り替えたりしたほか、社員研修にも時間をかけることができました。
営業を再開しても、すぐにお客様が戻るわけではありません。そこで、お弁当のテイクアウトを始めました。旅館のすぐそばにある亀山湖には、多くの釣り客が訪れます。その方たちを対象に、ボート店にチラシを置いて宣伝したところ、月に20万円ほどの売り上げになりました。宿泊者がゼロだったので、これは本当に大きな収入でしたね。そこからこのお弁当を武器にしようとどんどん発想が広がり、君津市や木更津市のイベントでもお弁当を販売するようになりました。結果的に、これが亀山温泉ホテルの認知度を上げるきっかけになったと考えています。
感染が落ち着いた際に使えるよう、オンラインショップで宿泊の先行販売も実施しました。「今は行けないけど、必ず行くから」と購入してくださったお客様のおかげで、200万円弱の売り上げになりました。当時、手元にキャッシュが入ってくることが本当にありがたかったです。

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