キー局や県域ラジオの放送とは異なり、市区町村単位で地域に特化した情報を届けるラジオ放送局「コミュニティーFM」が今全国に300局以上あることをご存じだろうか。これらのコミュニティーFMでは、地域の人々がパーソナリティーを務め、地元に密着した情報を放送しているが、災害時には瞬時に災害情報を伝える放送に切り替え、より細かな情報を地元の人々に届ける。重要なインフラとして今注目を集めているコミュニティーFMとは、どのような仕組みで運営されているのか。コミュニティーFM局に番組を提供しているミュージックバード(東京・千代田)の雄谷英一社長に話を聞いた。
災害が起こった際、地域のインフラとして機能する市区町村特化型ラジオ「コミュニティーFM」。FMは周波数変調(Frequency Modulation)の略で、放送範囲が絞られる代わりに雑音の影響を受けにくいのが特長だ。県域放送とコミュニティー放送に大別され、都道府県よりもさらに狭域を対象にしたコミュニティーFMは震災を機にその重要性が注目され、1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災の後に数を増やしている。街の防災無線だけでは情報が聞き取れない、行き渡らないという課題にも自治体などの行政と連携したコミュニティーFMは対応している。
コミュニティー放送局は災害対応と地域の活性化を目的に各市区町村に開局し、現在、その数は全国339局に上る。うち47%に当たる161局に番組を提供しているミュージックバードの雄谷英一社長は次のように説明する。
「自然災害など地域で起きていることに対してきめ細かな対応ができるのがコミュニティーFMの特長です。全国放送や都道府県レベルでは伝え切れない情報を、市区町村レベルで細かく発信できます。例えば、どこの橋が崩落しているか、給水車はどこにあるのかといった、そのエリアに住む人にとって非常に重要な情報を届けることができるのです。
また、震災などの災害が起こった後の復旧・復興時は炊き出しやゴミ収集の場所など被災地域の住民にとって欠かせない情報を発信します。一方、平常時は市民ボランティアなどが市民へ地域の情報を発信、共有する役目を果たしています。いわば“我が街のラジオ”ですね。
近年、自然災害は増加、甚大化傾向にあります。線状降水帯なんて言葉がメディアでよくいわれ始めたのもここ数年ですよね。地域の人々の安心・安全に寄与する情報を提供することが、コミュニティーFMにとって極めて重要な役割になっています」(雄谷氏)

コミュニティー放送局は、各自治体と防災協定を結んでおり、災害が起きると、自治体と連携して情報を発信する。大きな災害が発生した際には自治体が総務省に臨時災害放送局設置を要請することがあり、地元のコミュニティーFMが臨時災害放送局となって放送することも多い。また地元にコミュニティーFMが開局していない地域であれば総務省が送信機器等を貸し出し、近隣のコミュニティーFMが協力して臨時災害放送局を立ち上げることもある。
災害時、地域の人たちからの情報が地元のコミュニティーFMには寄せられる。しかし、情報の裏取りが難しくすべてをうのみにして放送すると、混乱を招く場合もある。そこで、コミュニティーFMの中には、あらかじめ有志の中からサポーターを認定し、研修などを行い、そのサポーターたちから情報を集めて放送するような仕組みも導入されつつある。
「災害時のラジオの役目は、災害情報を流すだけではありません。日数がたつにつれ、被災者の心身の負担は大きくなります。東日本大震災のときは、そんな被災者の心を少しでも明るくすべく、みんながよく知るアニメソングを流していました。人々を元気づけることも、重要な役割の1つです」(雄谷氏)
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