Smappa!Group(スマッパグループ)は2003年の創業以来、新宿・歌舞伎町でホストクラブを中心にバーや飲食店を運営している。近年では業態の幅を拡大し、美容サロンやギャラリー、能舞台の運営、介護事業まで展開。「業界は変わっても、提供するコアなサービスは同じ」と、会長の手塚マキ氏は言う。同グループが大事にしているのは、顧客一人一人に合わせた「プロフェショナルサービス」だ。前編では、ホストクラブ運営を起点に、幅広いビジネスに挑戦する狙いに迫る。
日本最大の歓楽街、新宿・歌舞伎町。多くの若者たちでにぎわうこの街に、小さなデイサービス(通所介護)センターがある。オフィスビルの一角で、高齢男性たちは麻雀を楽しみ、女性たちは鏡を片手に髪の毛を結ってもらったり、歌を歌ったりと、思い思いの時間を過ごす。一般的なデイサービスセンターとは少し様子が違っているようだ。
Smappa!Groupがこの「新宿デイサービス」を開設したのは、2018年12月。Smappa!Groupといえば、新宿・歌舞伎町で20年間にわたりホストクラブを運営している会社だ。ホストと介護、一見共通点がなさそうに思えるが、なぜ介護事業に進出したのだろうか。
利用者もボランティアも自由に集まれる「たまり場」に
同グループ会長の手塚マキ氏は、「高齢化は歌舞伎町も同じ。 歌舞伎町商店街振興組合に理事として参加する中で、地域の高齢者が楽しめる新しい場所があればと考えていた」と話す。
そんなとき、たまたま介護大手の伸こう福祉会(横浜市)の創業者と会う機会があった。
「コーヒーをカップだけで提供するのではなく、カップの下にソーサーを敷くのが介護の仕事」
創業者のその言葉を聞き、手塚氏は介護事業への進出を決めた。
「ソーサーがなくても、コーヒーは飲めます。つまり、その一手間はなくてもいい。それはホストの仕事と同じだと思いました」(手塚氏)

Smappa!Groupが運営する新宿デイサービスの特徴は、一人一人にパーソナライズしたサービスを提供すること。同社では、「高齢者」や「介護度」などの枠組みで人をくくることはないという。
利用者には丁寧なヒアリングをもとにパーソナルデータを作成、個別のプログラムを提供する。
「施設まで歩いて来たいか、送迎を利用したいか。行きだけ、あるいは帰りだけ歩きたいか」
「ご飯は魚がいいか、肉がいいか」
「リハビリを行いたいか、体を動かしたいか、動かしたくないか」
「将棋は好きか、麻雀にチャレンジするか。花札はどうか」
その細かさには驚かされる。小さな事業者だからこそできる対応だろう。
「多くの高齢者施設では、利用者がみんな椅子に座ってぼんやりテレビを見ている。それで幸せなのか? と疑問を感じたのです。そこで、開業時には、ふらっと訪問できるようなビルの一室を選びました。『介護施設に行く・通う』のではなく、『楽しみに行く』というような場所。そのほうが高齢者にとって息抜きになるんじゃないかな、と思ったんです」(手塚氏)
新宿デイサービスが入っているビルには、Smappa!Groupのオフィスもあり、スタッフたちが近くで働いている。
「時々、間違えて認知症のおばあちゃんが『こんにちは』ってオフィスに入ってくることもあります。だから『仕事手伝ってくださいよ』と言ってシュレッダーをかけてもらったりしました(笑)。そういう自然なふれあいを高齢者の方たちも楽しんでくれていますし、僕たちも癒やされています」と手塚氏は話す。
もちろん、新型コロナウイルス禍では細心の注意を払い、現在もスタッフには毎日PCR検査を実施している。

ゆくゆくは、ここを「町のたまり場のような場所にしたい」と手塚氏は話す。
「オフィスの横に介護施設があって、手伝いたいという若者が集まってきて、高齢者もふらっと遊びに来られる。そういう場になるのが理想ですね。大企業には託児所はあっても、デイサービスはないですよね。子どもだけじゃなくて、おばあちゃんを連れて来られる。そんな場所があってもいい気がするんですよね」
現在、新宿デイサービスの利用者は、10人程度。黒字化するには、利用者を増やす必要がある。一人一人に寄り添った介護サービスを売りに、これから営業活動や認知度アップにも力を入れていきたい考えだ。
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