部下にどんな言葉をかければいいか悩んでしまう、上司の言っていることの真意が分からない。同じ日本語を話しているはずなのに、なぜ、伝わらないのか。そんな世代間ギャップに注目し、コミュニケーションのノウハウや言葉の使い方を分かりやすく物語形式で解説したひきたよしあきさんの著書『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』(日経BP)は発売後約2週間で増刷が決定! 今回は同書から「部下にマウントを取って自分の力を誇示する言葉」を紹介します。
登場人物
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北風上司(左)
総合イベント会社ホワイトベア営業一課課長。1977年生まれ、45歳。入社当時から営業一筋。売り上げ目標、ノルマに厳しく、それを達成するには手段を選ばないところがある。若いころから日の当たる道を歩んできたせいか、「人の気持ちが分からない」とささやかれている。

前田智昭(右)
入社6年目。イベント会場を探す役割を担当。

 「どうにか3カ所、見つかった」

 新興の化粧品会社から依頼があった、「製品お試し会」の会場案。十分な日程の余裕がないなか、大勢の人を招くイベントを許可する会場を探すのは至難の業。貸してくれそうなところは先約が入っている。そこをツテを使って探し、なんとか見つけ出した3カ所。オーセンティックな要求にも応えられる。スタッフもいい。広さも十分だ。

 よし、これなら大丈夫。前田智昭、胸を張って社内プレゼンします!

 翌日10時、社内プレゼンが始まった。

 僕は意気込んで、襟付きのシャツを着て臨んだ。「人の気持ちを一瞬にして凍らせる」といわれる、営業一課の北風上司も参加している。今日も神経質そうな表情だ。ちっともこちらを見ないし。

 プレゼンを進めた。北風上司以外は、おおむね満足そうな顔をしている。3会場すべてを説明し終わったところで、いきなり北風上司の声がした。

 「それだけ?」

 え、十分、足りてると思うんですけど。っていうか、この時期に場所を探すの、恐ろしく大変なんですけど。

 「六本木のスペース××はどう?」

 知らない……。検索条件でヒットしたイベント会場にそんなところはない。正直に、「知りません」と言った。すると、北風上司は、「知らないんじゃしょうがないな。じゃあ、他の人に頼んでみるか」と言った。

 撃沈。昨日までの高揚感はおろか、仕事への情熱、生きがい、自分の存在、全部に北風が吹いた。なるほど、これが北風上司に部下がついていかないといわれている理由か。営業一課はこれまで何人もが、部署替えを望み、休職し、会社を辞めている。その気持ちが分かった。

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