どうも、新しいチームリーダーに嫌われているようだ。
先日、次の撮影の企画書を出した。読んでいるそばから、「ふぅ~」とため息をつく。ものすごい圧迫感。読み終えて、ポンと企画書を机に投げて、しばらく鼻と口を手で押さえてそっぽを向いた。嫌な沈黙。突然、
「おまえさあ、何年この仕事やってんだっけ」 と言ってきた。「5年です」と小さな声で答えた後は、覚えていない。いろいろ言われた。この企画書のことだけでなく、私の仕事ぶり全般、消極的な態度、声が小さいこと。
「そこまで……」とあっけに取られ、涙が出てきた。
机に戻って座った途端、動けなくなった。「もう辞めよう。向いていない」という声が頭の中で響きまくる。でも、辞めたところで他に行くところがない。世の中、働き方改革やら不景気やらがごっちゃになって、とにかく私のキャリアで雇ってくれるところなんてなさそう。それは分かっている。だから、我慢するのか、私。どうしよう。
翌日、帰りのエレベーターで、隣の制作一課の太陽上司と会った。入社当時から顔見知りなので、気楽に話せる。思わず、仕事がつらいという本音が漏れ出た。太陽上司は「少し話そうか」と、行きつけのカフェ「シラタエ」に誘ってくれた。 太陽上司は、私の企画書を読んで、「めちゃくちゃ否定されるほど悪いとは思わない けれど」と言ってくれた。そこからひとしきり、私は、リーダーに嫌われているみたいだという話をした。思いつくところを、次々と語っていった。太陽上司は、コーヒーに口をつけた後、にっこり笑った。
「塩川さんは真面目だなあ。そこが魅力なんだけれど、何もかも真面目に考えて、正面から向かっていくのは、誰だってつらいよ。会社に限らず、世の中ってのは気の合わないやつ、生理的に合わない人がたくさんいる。それにはいちいち付き合わなくていいんだ。かわしていいんだよ。
幽体離脱、していいよ。幽体離脱、知ってる? 体はそこにあるけれど、魂はフラフラ~ッて外に出ちゃうやつ。リーダーが人格否定みたいなことを言い出したらさ、『ああ、今晩何を食べようかなあ』とか、違うこと考えちゃうんだよ。体はそこに残してさ、機械的にうなずいたりしてさ。そういうの、全く悪いことじゃない。僕なんか、嫌な得意先とか嫌な部長とかに会うときは、いつも幽体離脱しているよ」と言って、笑った。
「幽体離脱」、そうか、働くってことは、かわす術を覚えることでもあるのね。やっぱり、この会社いいかも。ちょっと、そう思えてきた。
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