部下にどんな言葉をかければいいか悩んでしまう、上司の言っていることの真意が分からない。同じ日本語を話しているはずなのに、なぜ、伝わらないのか。そんな世代間ギャップに注目し、コミュニケーションのノウハウや言葉の使い方を分かりやすく物語形式で解説したひきたよしあきさんの著書『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』(日経BP)は発売後約2週間で増刷が決定! 今回は同書から「育休明けでやる気に満ちている部下の気持ちをそぐ言葉」を紹介します。
登場人物
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北風上司(左)
総合イベント会社ホワイトベア営業一課課長。1977年生まれ、45歳。入社当時から営業一筋。売り上げ目標、ノルマに厳しく、それを達成するには手段を選ばないところがある。若いころから日の当たる道を歩んできたせいか、「人の気持ちが分からない」とささやかれている。

横野夏美(右)
入社11年目。育休復帰1日目。

育休明けに北風上司にあいさつ、返ってきた言葉は?

 1年間の育児休業が終わって、出社する。子どもはまだまだ手がかかる。以前にも増して目が離せないし、ずっと一緒だったから、少しでも離れる時間が切ない。でも、私の母も協力してくれる。夫も、私の職場復帰を応援してくれる。一昨日、「復帰、おめでとう」と、プレゼントを買ってきてくれた。A4判のファイルの入るサブバッグ。このプレゼントで、私も職場復帰に向かう気持ちを整えることができた。

 部署は前と変わらず営業。人事部から連絡があって、もう少しラクな部署に異動するかを問われたけれど、断った。営業は得意先ありきなので時間が不規則。ノルマもきつい。それでも、私は入社当初から営業一筋で、この仕事が好きだ。何よりも、仲間が私の復帰を待ってくれている。その気持ちがありがたい。「よし、また、バリバリ働くからね! 」と意気込んで、出社の朝を迎えた。

 懐かしい! 少しレイアウトが変わっているけれど、空気は前のままだ。私は、大きな声で「おはようございます!」とあいさつをした。新しいバッグを懐かしいデスクの上に置いて、私を呼び戻してくれた北風上司の席に向かった。

 「よお、横野! 今日から復帰か! 」と、いつもは苦虫をかみ潰したような顔をしている北風上司が笑っている。

 「はい、またよろしくお願いします。がんばります! 」と頭を下げると、北風上司がこう言った。

 「まあまあ、当分、戦力にならないだろうから。しばらくは、お客さんでいいよ」

 お、お客さん? 私が? 育休明けって、そういう扱いなの? 全く期待していないってこと? 北風上司なりの気遣いの言葉なのかもしれない。けれど、心に冷たい風が吹いた。さっきまでの仕事へのやる気が薄れていく。

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