部下にどんな言葉をかければいいか悩んでしまう、上司の言っていることの真意が分からない。同じ日本語を話しているはずなのに、なぜ、伝わらないのか。そんな世代間ギャップに注目し、コミュニケーションのノウハウや言葉の使い方を分かりやすく物語形式で解説したひきたよしあきさんの著書『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』(日経BP)は発売後約2週間で増刷が決定! 今回は同書から、「反抗的なことばかりを言う部下を諭す言葉」を紹介します。
登場人物
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太陽上司(左)
総合イベント会社ホワイトベア制作一課課長。1977年生まれ、45歳。41歳の前厄で腎臓がんを患い、1年間休職。復帰後は、人材育成と新規事業に力を入れている。「彼と話すとなぜか仕事が楽しくなる」「やる気が湧く」と、他部署からも多くの相談が集まる。

鈴木翔太(中央)
入社5年目。初めて部下をひとり持った。

反抗的で投げやりな部下…どう対処すればいい?

 今年の4月から、部下がひとりできた。生まれて初めての部下。うれしかった。なんでも教えてあげようと思って、期待に胸が膨らんでいた。でも、すぐに夢から覚めた。初めから態度が悪い。仕事へのやる気や覇気が感じられない。

 昨日も、次の会議に向けて企画案をまとめてくれと頼んだ。すると、「その仕事、やる意味あるんですか?」と、不満いっぱいの口調だ。「やる意味があるから、頼んでいるんだろう!」と内心ムカッと来たが、「やる意味」をうまく説明できなかった。「やることはマストだ」と育てられてきたものだから、当たり前のことをいちいち説明できないのだ。

 こういう反抗的で投げやりな部下を、どう育てたらいいのか。太陽上司ならどうやって対処するのか。ほとほと困って、忙しい太陽上司に無理を言って、ランチに誘った。

 「鈴木くん、お疲れさま。部下の反抗的な態度ってカチンと来るよね。『これは命令だ!』とつい言いたくなるよ。僕も何度、口まで出かかったことか。実際、口に出して気まずい関係になったこともある。だから正解はこれ、とは言えないけれど、これまでに効果のあった方法を教えるね。

 とりあえず、『その仕事、やる意味あるんですか?』という態度に対してどうするかを考えようか。まずは、反論したり嫌な顔をせずに、相手の言った言葉を使って質問するのがいい。おうむ返しにするんだ

 『この仕事、君はやる意味がないと思うんだね。なぜかな

 大事なことは、本人の言った内容を他人の声で聞かせることだ。『あ、今、自分はそんなことを言ったんだ』と確認させる。自分の言った言葉がブーメランのように戻ってくることが分かると、人は感情的で攻撃的な言葉を吐けなくなるもんだ。

 次に、部下は『前回もつくって無駄になった』とか『自分がやるべき仕事じゃない』などと言ってくるだろう。そこでまた、部下の言葉を使って質問だ。

 『前回もつくって無駄だから、今回も無駄ってこと?

 『なんで、君がやるべき仕事じゃないんだろう?

 あくまでソフトに。で、最も大切なのは、『やりたくない』と言うだけでは逃れられない事実を示すこと。こんな順番で相手を諭し、動いてくれるようにするといい」

 1 僕は、君の仕事の速さと正確さを日ごろからすごいと思っている。

 2 今回の仕事は、役員も見る。君なら、それに応えるものが書けるはずだ。

 3 でも、君は前回無駄だったから、今回も無駄になると考えた。そうだろうか。
 僕はそうは決めつけられないと思う。何事も前と同じと決めつけるのはよくない。

 4 まずは君の考えを書いてほしい。分からなければいつでも言ってきてほしい。

 初めは、「これで諭していることになるのかな?」と正直思った。でも「前と同じと決めつけるのはよくない」とは言っている。それなのに全体的に相手を肯定している感じが残る。「これが太陽上司マジックか」と思った。

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