取引先への謝罪、守ってくれるはずの上司が…
連休の子ども向けフェス。過去に例がないほどの赤字を出してしまった。もちろん、僕たちが完璧だったとは言わない。でも、過去に例がないほどの悪天候を始め、さまざまな不運に見舞われてしまった。
なんとかリモートでも参加できるハイブリッド形式にしたけれど、告知が遅く、人の集まりが悪かった。会場で配る予定だったサンプル商品や、子どもたちを楽しませるための段ボールハウスやスウェーデン製のゲームは手つかずのまま倉庫へ。仕方がないこととはいえ、「なぜ、もう少し早く気が付かなかったのか」「万が一のことに対処する企画を考えていなかったのか」と言われると、言葉がない。
確かに僕たちも、できると信じてやっていたところがあった。情熱だけで乗り切れるものじゃなかった。このイベントを依頼した取引先に説明に行く。実質的な謝罪だ。営業から、取引先が不機嫌だと聞いた。何度も「大丈夫ですか」とも言われていた。気が重い……。
事態を重く見た会社は、北風上司にも先方に向かうように命じた。ある程度の肩書のある人が行かないと、事態は収拾できないとの判断だった。それが、僕の気をますます重くした。北風上司が頭を下げたところを見たことがない。謝罪なんてできるのか。
得意先の食堂で30分も待たされたのは、先方からの「あなたの会社を信用していません」という合図だ。最悪の気分。北風上司は案外さっぱりしていて、「俺、この案件、あんまり関わってなかったから、よく知らないんだよなあ」と言っている。同期が事の経緯を説明しているところで、会議室に呼ばれた。
「今回は、誠に申し訳ございませんでした」と、北風上司の謝罪から始まる。「あ、ちゃんと謝れるんだ」とほっとしたのもつかの間、奈落の底へ。
「桜川、じゃ、ちゃんと説明して。どうしてこういうことになってしまったんだ!」
北風上司は、怒った口調で僕に向かって言った。おかしい。守ってくれるはずの上司が、まるで取引先の代表のような顔と口調で僕を責めている。必死に説明した。正直、得意先より、腕を組んで難しい顔をしている北風上司のほうが怖い。「得意先の前でわざと大げさに怒って、相手の矛先を鈍らせようとしているのか?」と一瞬思ったが、どうやらそうではなく、自分のメンツを守りたいだけのようだ。その証拠に取引先の怒りは僕に向いて、とどまる気配がない。なんだか全責任が自分にあるみたいだ。仕事が怖い。人間って怖い……。
Powered by リゾーム?