会社も個人も「気質」はなかなか変えられない

 私がこの調査報告を素晴らしいと思ったのは、「辞めるか辞めないかの分かれ目」に的を絞っているからです。多くの組織風土サーベイは、「創造性があるか」「方針が徹底できるか」「現場の情報をくみ上げられるか」といった、会社経営の素材として風土を調べていますが、それらは「マネジメントにより調整可能なもの」というとらえ方をしてしまいがちです。調整可能であるがゆえに、「会社・社員双方が改善に向けて歩み寄ればなんとかなる」という結論になってしまうのです。

 対して、ここで上げた5軸は、会社の気質であり、そんなに簡単に直したりはできません。同様に、社員にとっても、持って生まれたものや長年の生活で培った行動則なので、なかなか歩み寄りができないものであると見ております。それゆえに、合わない場合はどうしようもなくなり、退職に至るという結論です。

 もちろん、5軸全てにおいて会社と社員がピッタリというケースは少ないでしょう。1つ2つの軸でずれがあっても、お互いが大切にする軸で大きな乖離(かいり)がない時は、退職には至らないといえそうです。というわけで、5軸全てと考えず、「一番重要なのはどの軸か」を明確にしておくことをお勧めします。

新卒に「ガクチカ」を聞いてもあまり意味がない理由

 さて、この先は、明日から使える実務的な話をさせてください。採用面接で、応募者を5軸分析するとき、どのようにすればよいか、についてです。

 採用面接に臨む応募者の多くは事前に自己分析をしていますが、ストレートに、「競争タイプですか、協調タイプですか」と聞かれると、何か裏があると考えて、身構えてしまうものです。さあ、ここでどうするか。従来の面接と異なる手法が必要です。

 現在、採用場面で行われる主な面接手法は、行動観察型(Behavioral Effective Interview=BEI)です。これは、応募者の過去を具体的に聞き、事実を積み上げて、その人の能力・人物像を明らかにしていく手法です。基本的には、5W1Hにより応募者の発言の裏付けを取りながら、虚飾を廃し、重要ポイントには深く突っ込んでいきます。その際には、「ガクチカ(学生時代力を入れたこと)」や「最大の成功、最大の失敗」「一番嬉しかったこと、悲しかったこと」などよく使われますね。これらは、専門的にはクリティカル・インシデント(重大事件)に分類されます。

 この手法は、確固とした経験が過去にあり、その中に、人間性や技能を表す事実が豊富に含まれている場合だと、示唆に富むものになります。とりわけ、職歴について、BEIを行うと、職種を問わず、意義深い面接を行うことができるでしょう。

 ところが、経験の浅い若年者や学生相手だと、たいていは「そんな話あったかなあ」となってしまう。大学生のキャリア相談でも一番苦労するところはそこですね。そこから、ちょっとしたことを針小棒大に盛って面接に臨むという学生が多くなる。だから、新卒採用でのBEIは5W1Hで虚飾をそぎ落すことが、けっこうメインタスクになってしまったりするのです。

 笑い話になりますが、「話を盛り過ぎの学生」と「全く話が出ない学生(話の内容に欠ける)」に二分されるので、モリカケ面接なんて揶揄(やゆ)することもあるそうで……。

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