「AI(人工知能)が仕事の大半を代替する時代がすぐそこまで来ている」。こんな予言が世の中に大きな衝撃を与えたのは今から9年前。しかし代替はさほど進んでいるようには見えず、人手不足も相変わらず深刻だ。

日本の生産年齢人口(15~65歳)が減少に転じてはや25年余、その減少幅は1250万人にもなります。対して産業界は以下の3つの方法で人材不足をしのいできました。
1.衰退産業からの人材流出
2.女性の労働参加
3.高齢者の就労継続
ところがこの3つの補充策のどれもがもう、枯渇した状況となっています。衰退産業は就業人口が底打ちして、逆に人材不足感が高まり出しました。女性の労働参加は量から質への転換期であり、正社員総合職や管理職などは増えていきますが、非正規従業者は減っていく。そして、高齢者は働き手として有望な前期高齢者が激減し、後期高齢者のみ大幅に増えていく……。前回はこんな実態を取り上げました。上記の人材が担っていた流通・サービス業などの非ホワイトカラー領域に、とてつもない人材難が押し寄せることが火を見るよりも明らかなのです。
こうした苦境への新たな対策として「AIやITを活用した省力化」が叫ばれています。ただ、そんな主張をする“識者”のほとんどは、労働・雇用の門外漢なのです。雇用領域の専門家や、流通・サービス業の当事者の多くは「そんなに簡単にはいかない」と口をそろえています。
今回は、「非ホワイトカラーの人材難は、AIやITではなかなか解決しない」、とりわけここ10年の中期スパンでは難しいという話を書くことにいたします。
あれ? AIで仕事がなくなってるんじゃなかったの?
まず、AIによる代替論の有名なものをざっと振り返っておくことにしましょう。
世間が「AIで仕事がなくなる」と騒ぎだしたきっかけとなったのは、2013年に発表された英オックスフォード大学のマイケル A. オズボーン准教授とカール・ベネディクト・フレイ博士の共同研究です。日本でもこの論文の推定手法を援用して、野村総合研究所(野村総研)が2015年に大掛かりなレポートを発表しています。
前者は、今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるという趣旨でした。後者では10~15年で5割弱の仕事がなくなるとしています。
さて、それからすでに幾星霜ですね。フレイ&オズボーンの発表からは9年、野村総研レポートからも7年(研究時期からは8年)たちました。5割なくなるとかいうのであれば、もう1~2割の仕事は消え去って、失業率が数倍に跳ね上がっていてもおかしくありませんね。にもかかわらず、世界中どこを見ても、まだコロナ禍から立ち直ってもいないぜい弱な経済下なのに、人手不足が深刻化しているのです。
ずいぶんとおかしくはありませんか?そう、これらの予測は「はずれた」とそろそろ誰かがしっかり振り返るべきでしょう。
Powered by リゾーム?