経済安保と外交への価値観の組み込み

北岡氏:佐橋先生は、日本がこれから取り組むべきことについて、どのあたりが重要だと考えますか。

佐橋氏:私が重要だと思うのは大きく2つで、バランスの取れた経済安全保障政策の確立、日本外交における価値観の組み込みです。

 隣国の中国は、マーケットとして、あるいは先端的な科学技術の担い手として、とても重要な国となり、今も勢いを維持しています。今後も中国との関係を断ち切るという選択肢はあり得ないでしょう。しかし、中国がつくり出している問題は直視すべきです。軍民融合を進める中国に日本や欧米の機微な科学技術が渡ってはいけませんし、人権侵害が疑われるような経済行為を中国で行うことも避けるべきです。

 技術流出への対応やサプライチェーンの見直しなど、受け身の対応が最近目立ちますが、国際社会に存在するルールを活用して、またそれを積極的につくり出すことを通じて問題を制御していく、そういった攻めの経済安全保障も重要です。

 また、日本が科学技術の基盤をきちんと持つ。それが日本経済の成長のためにも、中国側から経済的圧力をかけられないためにも必要です。経済安全保障の取り組みが国際共同研究や企業活動を下手に萎縮させないようにすべきですし、政府は支援を強めていくべきでしょう。米欧は実はそのあたりをよく分かっています。

 そして、日本外交が価値観を組み込む。これまでにも外交強化の手段としてのODAや人間の安全保障など、日本の外交は価値を少しずつ取り入れてきたと思います。米中が対立し、アジアの民主主義が後退し、市民の自由も抑圧され始めている今、まさにこの価値観が日本外交に問われているのではないでしょうか。損得勘定だけでは国際秩序は維持できません。

 ただし、外から一方的に価値観を移転しても、そうした試みは失敗します。必要なことは、今の状況を変えるという目標を持ちながら、それを長い目で達成するための広い視野です。民主化を実現させ、社会を成熟させていく、そういった将来を支える人材は不可欠です。今、そうした人材の多くが抑圧された環境下に置かれています。こうした人材を多く日本で保護できる仕組みがあってもいいのではないかと思います。

北岡氏:おっしゃるとおりですね。特に人権については、国際人権問題担当の中谷元・総理大臣補佐官は、日本の人権状況をしっかり改善することが重要だとおっしゃっていて、大変頼もしいと感じます。その観点から、アフガニスタンからの日本の関係者の退避に頭を悩ませています。

 JICAはこれまで、アフガニスタン政府の若手行政官を日本に招き、修士課程で農業や都市計画などを学んでもらったうえで、国の復興に活躍してほしいと送り返してきました。タリバンが勢力を盛り返す中、こうした有望な人材は日本がしっかりと守っていく必要があります。日本は、国内でも人道大国となって、さらに外国にも主張していくというのが筋でしょう。ぜひ日本は人権、人道を大事にする国だと思われるようになってほしいと思います。

佐橋氏:日本は人の保護という点では、諸外国に比べてかなり遅れていますね。こうした動乱期にこそ、日本外交の価値を鮮明に打ち出してほしいです。それが結果的に、日本が実現したい国際秩序の実現にもつながってくるわけですから。

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北岡 伸一(編)、東洋経済新報社

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