北岡氏:日本は米国と同盟関係にありますが、全く同じ行動を取れるかといえば、そうではありません。そもそも米国からすれば中国は遠く離れた国ですが、私たちからすれば目の前に存在するわけです。経済の依存度も高く、米国にとっての中国との関係とは異なります。

 では、日本と同じような境遇にあるのはどこかというと、東南アジアの国々です。同地域の国々は、米国か中国いずれかを選べと言われると困惑します。日本はASEAN(東南アジア諸国連合)と良い関係を築いてきました。ASEANの中でも人口が多いインドネシアやフィリピン、ベトナムと強い関係をつくることが重要になると思います。日本の人口にインドネシア、ベトナム、フィリピンの人口を加えると6億人を超え、国際社会で一定の発言力を持てる規模になります。そしてもう1つ重要なのがオーストラリアと太平洋島しょ国です。これらの国々としっかり組んで、何でも話し合えたり、防災分野、海上保安などで相互に助け合えたりするような関係をうまく築いていくべきです。

 既に海上保安庁と政策研究大学院大学、JICAが協力してフィリピンやインドネシアなど、多くの島を抱える国に対する海上保安協力を実施しています。海上保安庁のような組織がないと麻薬取引や海賊などの取り締まりができない。そこで、現地から来てもらって日本の政策研究大学院大学や海上保安大学校で訓練するなど交流を深めています。こういう関係を地道につないでいけば、一定の抑止力にはなるはずです。また、留学生など、知的交流も深めていく。長い時間がかかる話なので、『西太平洋連合のすすめ』の執筆には若手の研究者に参画してもらいました。米国か中国かの二者択一ではない別の選択肢も持つべきです。

佐橋亮・東京大学東洋文化研究所准教授
佐橋亮・東京大学東洋文化研究所准教授
国際基督教大学卒。東京大学大学院博士課程修了、博士(法学)。オーストラリア国立大学博士研究員、米スタンフォード大学客員准教授、神奈川大学教授を経て2019年から現職。外務省・科学技術外交推進会議委員。専攻は国際政治学、とくに米中関係、東アジアの国際関係。著書に『米中対立 アメリカの戦略転換と分断される世界』(中公新書)など。(写真:的野弘路)

佐橋氏:私もかつて東南アジアにはしょっちゅう勉強しに行っていました。シンガポールの声がどうしても大きくなりがちですが、たとえばインドネシアやフィリピン、タイの人たちと話すことが重要だと痛感しました。最近はこうした国々の人たちも、自分から積極的に話すようになりましたよね。

北岡氏:かつて東大に留学生として来日するのは中国や韓国、台湾からの学生がほとんどでした。当時は日本語で試験を実施していたこともあり、来日する学生が限られていました。今は英語で実施しているので、東南アジアの多様な学生も来日するようになりました。

 日本の外務省が東南アジアで行っている意識調査では、「どこが一番影響力の強い国か」という問いがあると、ほとんどの場合、やはり中国が一番になります。しかし、「どこが一番信頼を置ける国か」という問いに対しては、軒並み「日本」という答えです。こうした意識も活用して1つの連合を組む、というのが「西太平洋連合」構想です。

佐橋氏:米国は東南アジアの外交がうまくないですよね。2021年夏にハリス副大統領、その前にはオースティン国防長官が東南アジアを回りましたが、行った国もシンガポールとフィリピン、あとベトナムなど偏りがある。戦略性を重視したかと思えば、突如として民主主義や人権に関してお説教を始めたりする。それぞれ重要なことなのですが、実現したい目標が多いために、結果としてブレている印象が強い。

 米国にとっても、東南アジアは経済的にも戦略的にも重要な位置にあるのは間違いありません。東南アジアは日本に米国よりも強い信頼感を持っている。このアドバンテージを、日本はもっとうまく活用していくべきですね。

次ページ 経済安保と外交への価値観の組み込み