世界情勢は悪化の一途をたどり、ウクライナへの侵攻でロシアは一線を越えてしまった。ロシアとNATO(北大西洋条約機構)の深まる対立。その構図は、解決の糸口が見えないままに対立を深める米国と中国の関係性にも重なる。新たな冷戦ともいわれる両国の対立はなぜ起こり、どこに向かっていくのか。トランプ政権下で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたH・R・マクマスターの著書『戦場としての世界』(日本経済新聞出版)の出版を記念し、国際政治学者で東京大学東洋文化研究所の佐橋亮准教授と、北岡伸一・東京大学名誉教授の特別対談のもようを「米中対立の変容を読む」シリーズとして掲載する。最終回は、これからの日本外交の立ち位置をテーマに、日本が取るべき針路を語る。
(この対談は2021年11月16日に行われたものです)

佐橋亮・東京大学東洋文化研究所准教授(以下、佐橋氏):これまで、外交的な摩擦があっても、米中は基本的には関係を維持してきました。それが対立を中心とした関係となった結果、経済や技術に不可避に影響が出てきています。これまでの自由貿易の方向性、「制約なきグローバリゼーション」を維持していくのは難しくなりました。

 こうした時代に、日本は外交安全保障政策をどう考え、どのような立ち位置を目指して動くべきでしょうか。

北岡伸一・東京大学名誉教授(以下、北岡氏):日本にとって根本的に重要なのは、米国との関係を維持強化することです。しかし、それだけではダメです。

北岡伸一・東京大学名誉教授
北岡伸一・東京大学名誉教授
東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。立教大学教授、東京大学教授、在ニューヨーク国連代表部大使、国際大学学長、国際協力機構(JICA)理事長などを歴任。2011年、紫綬褒章受章。主著に『明治維新の意味』(新潮社)、『世界地図を読み直す―協力と均衡の地政学―』(新潮社)、編著に『西太平洋連合のすすめ―日本の「新しい地政学」』(東洋経済新報社)など。(写真:的野弘路)

 専守防衛ということは、つまり日本は防衛だけで、攻撃・反撃は米国任せ、というのも過剰な米国依存の一つです。日本は自前の反撃力も持つべきです。「我々からは絶対に戦争を仕掛けません」とのメッセージを首相が明確に国際社会に発した上で、攻撃された際の反撃力は十分に持っておく必要があります。

 そして外交上、気を付けるべきなのは言葉遣いです。丁寧であるべきで、いたずらに挑発をしてはいけません。

 さらに、インド太平洋地域はもちろんのこと、中国の周辺の国々とも強い関係を構築する必要があります。そのためには非軍事の外交力の強化が不可欠で、なかでもその手段としての政府開発援助(ODA)の役割は極めて重要です。

佐橋氏:北岡先生は近著『西太平洋連合のすすめ』を発表されています。どのようなご提案なのでしょうか。