佐橋氏:米国による他国への関与政策や、その後のアクションについては、米国政府だけでなく、国内のさまざまなアクター(関係者)を見ないと分からないですよね。
産業界や宗教界、米軍やメディア。あるいは政策シンクタンク、教育界、そして人権問題などを積極的に発信する非政府組織(NGO)などでしょうか。それら米国の多様な声の多くが、米国の関与政策を支えていた。いずれ中国は変わると信じていたが、それが2015年あたりから中国との関係を見直すように変化していった。
北岡氏:もう一つのファクターは米国の知識人でしょう。みんなそれぞれ、自分の関心に即して、中国の都合のいいところを都合のいいように見ているだけなんです。そういう意見もまとめて、統一した政策にして打ち出すのは時間がかかるし、何か大きなきっかけがないと難しい、ということだと思います。
佐橋氏:米国の知識人の中にも、中国の変化に理解を示して、関係を維持してグローバル化を進めていこうという立場の人が多かった。近年は急速に中国に対して厳しい見方に変わってきてはいますが。
北岡氏:中国のイデオロギー工作は実際に経験しました。2011年、米国のアジア学会年次大会に行った時、尖閣諸島問題を扱うパネルディスカッションもあったのですが、参加者全てが中国側の人でした。そんなアンフェアなものが許されるのか、と思いました。こういうところは日本も対応がうまくないと思います。ただ、このような点を許してきてしまったのも、中国の自信につながっていったわけです。
佐橋氏:中国サイドは米国のことをよく理解している。圧倒的な資金力で言論界や教育機関をねじ伏せるようなこともしてきました。さらに全米の各州にかなりの投資をしてきた。柔軟さ、適応力という点で中国はしたたかですね。ただ、ここ5~6年に関しては、そうした中国のうまさが吹き飛ぶほどに、米国内での中国警戒論が強まってきました。
その象徴がトランプ政権の誕生です。自国の利益を追求する姿勢を前面に出すようになった米国。その背景には何があるのか、見ておく必要があります。
「中国は唯一の競争相手」――現職の米国大統領がこう明言するように、近年、米中の対立は激化する一方である。貿易戦争、科学技術の流出と開発競争、香港・台湾問題……。米国の対中姿勢は関与・支援から対立へとなぜ変わったのか。大統領や国家主席が誰であれ、今後も対立が続くのか。1970年代の国交回復から現在に至る米中関係をたどり、分断されていく世界の中で、日本のとるべき針路を考える。
佐橋亮(著)中公新書
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