社員のメンタルヘルスに取り組む企業人事部の現場担当者は、休職社員一人ひとりの体調や状況と、会社の対応に頭を悩ませるものです。
当クリニックがある東京・大手町には多くの企業があります。その一つが、主に日本全国のオフィスビルや商業施設を含む複合ビルなどの運営管理ほかを行う三菱地所プロパティマネジメント社です。今回は、同社で社員のメンタルヘルス対策に取り組む人事企画部の水野英樹さんと対談形式で、「うつ休職からの復職」についての疑問・質問にお答えしたいと思います。
[この記事は、Human Capital Onlineにて2019年7月2日に掲載されたものです。情報は掲載時点のものです]
復職時にしっかり患者情報を入手することが大事です
五十嵐Dr:水野さんは社員1100人の会社の人事部で「休職者ゼロ」を目標に、休職者が復職する際には、契約先EAP(従業員支援プログラム)と復職のフローの計画を立てるなど、メンタルヘルス対策の様々な取り組みをされていますね。
三菱地所プロパティマネジメント 水野(以下、水野):はい。復職後のフォロー以外にも、昨年までは不調者が出てからの対策をいろいろやってきました。今年からは、そもそも病気にならないための予防に力を入れています。
例えば、病気への理解とセルフケア知識を深めるために、希望者に大阪商工会議所の「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」の受験費用を会社が負担する施策を行いました。社員の1割が受験、そのうち、7割が合格しました。
「ポジティブヘルス(ストレスがたまらない職場づくり)」の取り組みとして、部署内のコミュニケーションのためのイベント企画に社員一人当たり5000円を補助することも始めています。

復職者の5割が再休職したことも。「復職可能」診断書が早過ぎる?
水野:一方で、メンタル不調で休職した社員が復職後に再休職を何度も繰り返すことにどう対応するかが今、一番の課題です。多い時には復職者の5割が再休職しました。
また、人事として困っているのが、社員がうつ病と診断されて休職してから、わずか1~2カ月で、まだ通勤がギリギリ、やっとできるという程度の回復状況にもかかわらず、主治医からは、「復職可能」という診断書が出てくることがある点です。
そんなに短い期間で職場に戻して、うまくいったケースはほとんどありません。人事としては通常業務をある程度できるレベルまで回復してから復職してもらいたい。でも、主治医から「復職できる」という診断書が出てしまうと、何か特別な理由がない限り、引き続き休ませることは難しい。
おそらく、社員(患者)が、休んでいると収入が減るという経済的理由などから「早く復職させてくれ」と主治医に訴えてのことだろうと思うのです。でも、主治医も「さすがにまだ休養期間が短か過ぎる」など、患者の現実の状態を判断してほしい……。
五十嵐Dr:主治医にも、いろんな主治医がいます。しかし、主治医にとって「患者さんはお客さん」でもあり、本人が主張する「復職できます」という意向に否定をする根拠を持っていなければ、診断書を書かないということは難しいと思います。
水野:なるほど。
五十嵐Dr:それに、復職の可能性を判断するには、診察室内で聞く患者からの話だけでは、情報量に限界があります。
大事なことは、復職時期を決定するのは主治医ではないということです。決めるのは会社です。会社の責任において復職を認める。
主治医は単に意見を述べているのです。そして会社側の受け口としては産業医がいるはずです。
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