場の空気が読めない。人とコミュニケーションがうまくとれない。不注意によるミスや忘れ物が多い。カッとしやすい……。

 こうした特徴を持つ発達障害は一定の割合で存在し、本来、子供の頃から表れて周囲に気づかれているものです。しかし、それが軽度であったために子供時代には本人も周囲も気づかないまま成長し、会社に入ってから対人関係で悩み、その結果、うつ症状が表れて休職するというケースが近年、増えています。今回はうつ病の裏に隠れている「大人の発達障害」について、その対処法を紹介します。

原因は職場環境ではなく、本人の障害

 「大人の発達障害」は、大人になるまでの長い間、周囲に気づかれなかったほど、障害の程度は軽く、傾向は低いのが特徴です。

 しかしながら、会社組織の中で業務を行うようになると、それまでは無意識に避けてこられたような場面にも、直面して取り組まなくてはならなくなり、苦手な場面が増えることから、憂うつになるなど、うつの症状が出るようになります。

 例えば、新入社員になってすぐ、上司との関係がうまくいかずに適応障害として休職する場合もあれば、経験を積んでチームリーダーになった途端、部下の個々の状況や気持ちに配慮することができず、悩んでうつの症状が出て休職する場合もあります。

 一見、職場の環境に影響されて、うつになったように見えるものの、実は、その背景には周囲とうまくコミュニケーションがとれない、周りの空気を読むのが苦手といった、発達障害が隠れているというケースです。原因は職場環境ではありません。

 それゆえ、薬物治療などでうつの症状から回復したとしても、背景にある発達障害に気づけないままだと、復職後にまた同じような場面でストレスを感じてうつを再発することになり、負のスパイラルに陥りかねません。

 前回ご紹介した双極性II型障害と同様に、うつ症状の背景にある、本当の原因、大人の発達障害に早期に気づいて対応することが大切なのです。

(写真:123RF)
(写真:123RF)

“大人”は、2つの傾向を併せ持つ場合が多い

 大人の発達障害は「自閉症スペクトラム障害(ASD)」と、「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」の2つに、大きく分けられます。

 それぞれの特徴は以下の通りです。

●自閉症スペクトラム障害(ASD)の主な特徴

 草食系、おとなしい。表情が少ない。場の空気が読めず、例えば、突発的に妙なことを言う。人とコミュニケーションがうまくとれない。物事にこだわるので、興味が偏っている。これからのことを予測して予定を立てるのが苦手。他者の気持ちを想像したり、視点に立って考えることが苦手。集中力は高いが、他のところに全く注意がいかない。視覚、聴覚などの感覚が過敏。

●注意欠陥・多動性障害(ADHD)の主な特徴

 幼い時に目立った落ち着きのなさ(多動)は目立たたなくなっているものの、時に表れ、常に動き回ったり、せわしないことがある。思い立ったことをすぐにやりたくなる。不注意によるミスや忘れ物が小さい頃より多い。2つのことを同時に行うのは苦手。注意が集中せず、部屋が片づけられない。親しみやすいところがあるが、カッとしやすい。

 このように、大きくとらえれば2つに分かれますが、大人になるまで気づかれないほど軽度の人たちは、この両方の傾向を持っていることが多いのが特徴です。

 そのため、無理にどちらかに当てはめようとせず、両方の傾向を持っているという前提に立って「どちらの傾向が目立つか」と考えることが大切です。

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