診断書の病名の違いを、いちいち悩まなくていい

 最近、人事担当者からよく尋ねられる質問は、メンタルヘルスや「うつ」について、「どういう病気なのか、実はよく分からない」というものです。

 休職に至る会社員の多くは、憂うつ感やおっくう感を伴う「うつ状態」になって会社を休みます。しかし、それぞれの主治医から出てくる診断書の病名は、一つではないからです。

 例えば、この人は「適応障害」、こっちの人は「双極性障害」、また別の一人は「うつ病」と、人によって違う。

 それらがどう違って、どういう病気なのか? 人事の皆さんは医学的なところでまず悩みます。

 でも、医師ではないわけですから、分からなくて当然。医学的な知識があればいいけれど、実際には人事の仕事は必ずしも、医学的な知識を正確に、詳細に持たなくてもできるわけです。大事なことは「人事として診断書をどう読み解くか」ということだと思います。

症状として「うつ」が現れる病気は複数ある

 先に挙げた、「適応障害」も「双極性障害」も、患者がうつ状態になるという点では「うつ病」と同じです。つまり、症状は同じ。でも、実はその症状の背景に、異なる複数の疾患が隠れている場合が多い。その背景疾患を原因として、うつという症状が出ているのです。

 かつて「うつイコール、うつ病」という時代がありました。うつ病とは、気持ちが沈み、興味や喜びを失い、眠れない、食欲がない、といった「うつの症状」が一定の期間続く病態を指し、こうした症状が見られると大体「うつ病」と診断されていました。

 昔から「うつ」という症状を持つ病気は、いろいろあることが分かっていましたが、現在では単純な「うつ病」以外のうつの割合がかなり多いということを、精神科医が認識するようになってきました。かように「うつは複雑なのだ」という理解がまず大切です。

 医師によって診断書の書き方にはクセがあります。例えば、明確にうつ病と診断できない時には私は「うつ状態」という診断書を出すことが多いのです。ですから、一つひとつの病名の違いに振り回されず、まずは、大づかみで「うつ状態が症状として表れる、複数の病気のうちの一つ」という程度にとらえていればよいでしょう。

最大の悩みは「職場に戻して、本当に大丈夫か?」

 もう一つ、よく尋ねられるのが「復職させるタイミング」についてです。こちらは最近のことではなく、もう長年、皆さんがお困りのことだと思います。

 休職していた社員が「うつ状態」から回復し、治ってきたのはいいけれど、一体、どのタイミングで職場に戻すのがいいのか。

 さらに「どこの職場に配属させるか」という問題もあるでしょう。うつを発症した、元の部署に戻してもいいのか、それとも新たに別の受け入れ先部署を探す方がいいのか。新たな受け入れ先部署が見つかっても、これまでやったことがない新しい業務に対応できるのか。

 中でも悩ましいのが、「この社員は『うつが治った』と言っているけれど、本当にこの人を職場に戻して働かせていいのか? 本当に大丈夫か?」という問題です。

 なぜなら、主治医と産業医が「復職可能」と判断して診断書を書き、それを信じて復職社員を部署に配属してみたら、すぐにまた体調を崩して再休職してしまった!という失敗が、これまであまりにも多かったからです。こうした失敗は、多くの人事担当者が経験しているはずです。

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