また、特例子会社などで障害者雇用についての経験を多く積んだジョブコーチが、一般雇用の職場での発達障害の人の対応に当たることも、既に蓄積されたノウハウを活用でき効率的ではないかと私は考えています。

 多くの場合、親会社の人事と特例子会社はラインが異なり、特例子会社のスタッフを本社で活用するのは容易ではないのが実状ですが、最近では特例子会社の企業在籍型ジョブコーチが、親会社やグループ会社の助言を行うケースも増えてきています。

 今後は障害者雇用か一般雇用かで分けるのではなく、障害者雇用で蓄積したノウハウを、一般雇用にももっと活用できる可能性が出てくるかもしれないと思います。

「発達障害かも?と思われる人」がいる場合は

五十嵐Dr.:さて、ここまでは、「発達障害である」「発達障害の傾向がある」と、既に診断された人について取り上げてきましたが、職場には「どうも発達障害のようだと思われるけれども……」という人がいる場合もあります。

 日常の業務の中で、周囲は何となく気づいているのだけれども、本人にはどうも自覚はない様子。さて、どうするか。こういう場合は、まず、診断から始めなくてはいけませんが、時間をかけて丁寧に取り組んでいかないと、ハラスメントとして労務問題に発展するというケースが少なくありません。

小川教授:はい。既に診断を受けていて、本人からも配慮の申し出があればジョブコーチの投入などができますが、本人に発達障害の自覚がなく、配慮の申し出もない場合に、例えば企業在籍型ジョブコーチが対応に入っていくと、「障害者として差別された」という問題になりかねません。こうした対応は難しいところです。

五十嵐Dr.:そうなんです。むしろ、企業はあらかじめ職場に「企業在籍型ジョブコーチ」を養成しておいて、その人の視点で見てもらい、人事部が意見を聞く形にすると、医療機関につなげやすくなるのではないかと思います。

 実際、人事部が社内の企業在籍型ジョブコーチに意見を聞いたうえで、医療機関に相談を持ち込んだ例も増えており、時間をかけて本人に納得してもらって医療機関を受診できたことで診断につながったケースも出てきています。本人が納得すれば、会社にとっても、本人にとっても一番良いと思います。

ジョブコーチ研修を受けて新たな視点を

小川教授:ここまでお話してきて、一般雇用の人事担当の方や職場で発達障害の対応に困っている方などが、ジョブコーチ研修を受けると、雇用管理に新たな視点が生まれるのではないかと思いました。

 まずは自閉症スペクトラム障害(ASD)の特徴を理解して基本的な対応方法が分かれば、ある程度の解決ができます。そして人事担当者が本人支援だけではなく、職場側の事情や要求を理解すること。この2つの調整を丁寧に行っていくことです。

 発達障害者は増えているため、もはや一般の雇用管理でも決してマイナーなトピックではありません。必ず身に付けなければいけない知識です。42時間(6時間×7日間)で学ぶ企業在籍型ジョブコーチの養成研修ノウハウをぜひ生かしていただきたいと思います。