限られた予算を活用するために
昨今、大手企業を中心に、社員の居住地を問わない働き方が認められ始めています。そうした変化に適応するために、自治体側に求められる姿勢とは何でしょうか。
松下教授:まず、情報提供の工夫で、滞在を検討している人に寄り添った情報を提供すべきです。例えば「広い家に住めます」だけでは不十分。「東京と同じ家賃で庭付き一戸建てに住めます」というように、初めて知る人がイメージしやすいことを意識しましょう。

そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)。DXを推進する企業に勤めている社員の視点から見ると、ワーケーションや移住の情報収集や各種手続きが、すべて紙の書類しかないなど自治体の現状に驚くことが多いです。また、いまどきFAXでの申し込みだったら、どういう地域に映りますか? 訪れるのが心配になる人も多いはず。土地の魅力を発信し、容易にアクセスしてもらうためにも、ポータルサイトを設けたり、分かりやすいオンライン申し込みを用意したりなど、DXは必要不可欠と言えるでしょう。
今後需要はどの程度広がると考えますか。
松下教授:矢野経済研究所の調査では、ワーケーションの経済効果は25年に3622億円規模にまで拡大します。また、「より正しく」推進すれば、この金額をさらに上回る規模になると個人的に考えています。
この「正しく」は、ワーケーションが「ワーク+バケーション」の足し算ではなく、「ワーク×バケーション」の掛け算であるという意識を持つという意味です。単にワークとバケーションをそれぞれ充実させる、ということではありません。日常から離れた場所で仕事をすることで新たな発想が生まれ、また仕事を持って移動することで、単なる観光ではなく、そこにいく目的や期待値を上回る体験がある、そうすると相乗効果を生み出せるのです。
結果、滞在先で思ってもみなかった新規事業が生まれるようになり、経済効果もより大きくなるはずです。
多くの自治体でワーケーション誘致の事例が生まれています。時がたつとそれらの事例が古びることは避けられません。だからこそ、事例をまねして同じことをするのではなく、まずは自治体の担当者が地域独自のワーケーションを議論する。また、事例を見るのであれば失敗事例も調査し、同じ落とし穴にハマらないことも重要です。
予算は有限だからこそ思考停止せずに、オリジナリティーのある魅力を導き出す。そこから始めてほしいですね。
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