自治体が留意すべきこと
自治体にとっても、やりたいけれどもやり方が分からないという状況だったんですね。
松下教授:新型コロナウイルス禍以降、自治体側の関心や期待度は高まっています。ただ現場の担当者からも、どのように推進すればいいか分からないという声が多く聞こえました。
よく届いた質問として「誘致のためのモニターツアー」に関するものがありました。「モニターツアーを企画して、全国から参加者が集まった。だが、その後の継続的なワーケーションにつながらない」という悩みでした。
モニターツアーは、名所巡りなど観光寄りの企画か、がっつりと社会活動にコミットするといったアクティビティー中心の企画で組まれることが多い。そうなると、参加者は仕事に時間を割けないうえに、疲れたままツアーを終えてしまう。その結果、「活力がわいたからその土地にまた行こう」といった動機が生まれにくいのです。
今、国もワーケーションを後押ししています。20年7月以降、推進するため国の予算や助成金・補助金制度が多く設けられました。観光庁の「『新たな旅のスタイル』促進事業」、環境省の「国立公園・温泉地等での滞在型ツアー・ワーケーション推進事業」、内閣府の「地方創生テレワーク事業」などです。
ただ、せっかく普及に公金が投じられても、自治体がそれをどう使えばいいか分からない。この好機をどう生かすかによって、ワーケーションが持続可能な取り組みに育つのか、予算消化の単なる一過性の取り組みで終わるのかを左右する。ワーケーションの取り組みは手探りの段階ですから、その土地らしさを打ち出そうとせず、他の自治体の成功事例をまねしただけの施策に走ってしまうのは、もったいないという思いがあります。
誘致に向けて、自治体側が留意すべきこととは。
松下教授:自治体の人は「うちの町には何もないから多くの人は来てくれない」と悲観してしまう声や、「うちの町には海と山、温泉があり、食べ物もおいしい」など、他の自治体と変わらない魅力をアピールするような声が聞こえます。いずれにも共通するのが、「独自性の開拓」ができていないということです。
何も、ゼロから魅力をつくり出すという必要はありません。地元住人には当たり前すぎて気づかないようなことでもいいのです。例えば、海と山が近い。1日で両方を楽しめる場所がある。素晴らしい夕日が見られる。地元の人と観光客の距離が近い。といった情報は、都市部の人にとっては魅力的に映るもの。そのような魅力を第三者視点で再発見して、「分かりやすい言葉」へと置き換える作業が必要です。
今、都市部に勤める経営者や社員が関心を持っているのが、「SDGs」「環境経営」「社会課題解決」といったキーワードです。自治体の担当者はそういうキーワードを耳にしたら、実際に都市部に足を運び、会社員と語らい、なぜそのような事柄に関心があるかに耳を傾けてはどうでしょうか。可能であれば都市部での職場体験することもお勧めします。ターゲットとなる実践者の仕事や生活を“越境体験”することが重要だからです。
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