前回「『人に会いに行く』ワーケーションで仕事の幅を広げる」では、意外な魅力として「人との出会い」があること、その出会いをきっかけとして仕事の幅が広がっていく可能性があることをご紹介しました。
今回のテーマは、実践者を受け入れる「地方自治体」。ワーケーションは「滞在者(実践者)・企業・地域」にとって“三方よし”といわれています。では、受け入れる側の地方自治体にとってはメリットしかないのか。課題やワーケーションの先にある可能性とは何か。自治体に向けたワーケーション実践のノウハウをまとめた『ワーケーション企画入門』を出版した関西大学社会学部の松下慶太教授(以下、松下教授)に聞きました。

本書では30の地域や企業、個人の実例を基に、持続的なワーケーションの企画や事業のつくり方を解説しています。そもそも、なぜこのテーマで本を執筆したのですか。
松下教授:大学でメディアコミュニケーションを研究しています。2015年ぐらいから、ノートパソコンやスマートフォンなどのモバイルメディアがもたらす働き方の変化について注目してきました。そうした中、海外の事例で「ワーケーション」という言葉に出合ったのです。当時脚光を浴びていたのは、オフィスから離れたビーチリゾートホテルのような場所で、パソコンを持って作業している人たちの存在でした。
「デジタルノマド」といわれた人たちですね。
松下教授:はい。私の好奇心がくすぐられたのは、インターネットの普及によって、本来であれば「家から出なくていい」という傾向が強まるはずなのに、モバイルメディアと結びつくことで、むしろ外に出歩く人が出現してきたことでした。モバイルPCを手にコワーキングスペースやカフェ、ビーチリゾートなど好きなところで働くことができるスタイルが出現しつつあった。そうしたトレンドが興味深く、フィールドワークを進めていきました。

その研究結果を19年に『モバイルメディア時代の働き方』という本にまとめたところ、地方自治体の方々とお話しする機会が増えました。彼らの悩みは地方の人口が減少する中で、いかに全国から人を呼び込むかということ。そうした相談に乗る中で、浮かんできたのが「ワーケーション」という取り組みでした。
これを推進したい自治体は多数存在するのに、実際にどう企画・実践すればいいのかを説いた本が1冊もないことに気づき、出版に至りました。
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