前回「うまくいくワーケーションの宿選び」では、仕事とプライベートをともに充実させる宿泊先選びの方法を紹介しました。今回は、ワーケーションの意外な魅力、「人との出会い」とその可能性を解説します。

 先日、筆者がワーケーションで訪れた京都。そこに滞在していた50代の男性がこんな話をしていました。「京都のゲストハウスのオーナーさんに『豆から挽(ひ)いて淹(い)れるコーヒーを他のゲストに振る舞うのが好きなんです』と伝えたら、『コーヒーの淹れ方の講習会をやってみませんか?』と声をかけてくれて。他のワーケーション先でも出会った人とのご縁でコーヒーの淹れ方の講習会のお話をいただくようになり、今では全国で講習会のみならず喫茶イベントも開催するようになったんです」

 ワーケーションといえば、日常の仕事を旅先など非日常の場所に持ち込んで、仕事とプライベートをともに満喫する生活スタイルを想起します。ワーケーション先では観光地巡りなどをして、一般的な旅行と同じような時間を過ごすのもいいですが、せっかくの長い滞在なので、普段の旅行とは違う過ごし方をしたいもの。筆者は、それが「人との出会い」だと考えています。

 人との出会いは、興味関心の範囲を広げてくれるだけでなく、キャリアの選択肢も広げてくれる可能性があります。冒頭の50代男性も、京都滞在中にコーヒーを振る舞う機会があり、自然と他の滞在者との会話が生まれ、本業以外の仕事につながりました。そして今回、筆者が男性とそうした会話ができたのも、ホテルではなくゲストハウスならでは。長期滞在がしやすいワーケーションだからこそ、そうした人的ネットワークを構築しやすいのです。

 「人との出会い」を求めるならば、その目的に沿った滞在先を選ぶことが近道です。筆者がおすすめするのは、「人と人をつなげるパイプ役」がいるゲストハウスや民宿、ペンションなどの宿泊先です。

 冒頭のエピソードは、京都のゲストハウス「FUJITAYA BnB」でのものでした。オーナーである藤田勝光さんは、自ら世界一周旅行をした経験を基に、「気軽に長期間日本に滞在できて、国際交流もできる場所を提供したい」との思いで、会社を辞めて起業し、ゲストハウスを開設しました。

 ハウスの入り口近くに、宿泊客同士がくつろいだり食事をしたりできるLDK(リビング・ダイニング・キッチン)を置くなど、自然と交流が生まれる“シカケ”をつくっています。また、宿泊者の趣味や特技に基づいたイベントを積極的に企画。筆者が滞在したときは、長期滞在中の20代女性がヨガ教室を開催していました。

交流スペースで、早朝ヨガに参加する筆者と家族
交流スペースで、早朝ヨガに参加する筆者と家族

 宿泊者の興味に合わせた滞在プランを提案してくれるのも、藤田さんの宿の魅力。筆者が「親子で京都ならではの体験をしたい」と事前に相談したところ、自身の人脈から、徒歩圏内で行けるだし屋での食育ワークショップやベルギーの茶道家が主催する抹茶の茶道体験を紹介してくれました。ゲストハウスがコーディネーターとしてつながりを提供しつつ、寮長のように宿泊者にいろいろな機会を用意してくれる。今までにないスタイルがあるのです。

創業明治36年の老舗だし屋の「うね乃」にて、親子でワークショップに参加する筆者親子。6メートルもある昆布に驚く
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日本文化に魅せられたベルギー人の茶道家が開く「茶ノ実鶴園」で抹茶の立て方を学ぶ
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 足元ではコロナ禍で外国人の来訪客が激減。藤田さんはその逆境をバネに、日本全国から京都にワーケーションで来訪する人を増やそうとしており、その成果は実りつつあります。

 「欧米人は長期休暇を取るのが当たり前。家族で3~4週間私たちのゲストハウスに滞在しながら、親が合間に仕事をしている姿を何度も目にしました。そういうスタイルが日本人にも定着したらいいなと思い、家族のワーケーション先として選んでもらう企画や情報発信を続けたところ、徐々に家族の長期利用者が増えてきました。この状態で、将来、海外旅行客が戻ってくれば、さまざまな交流が生まれ、京都をより魅力的に感じるきっかけとなるはず」(藤田さん)

 ワーケーションなどで日本人のお客様が増えていけば、コロナ後の国際交流ができる機会も増えていく。現地に定住していない人と、海外旅行客との面白いつながりができそうです。

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