(4)グループ会社の自主性を尊重したPMI
4つ目は、グループにジョインした会社の自主性を尊重し、型化された支援(PMI)ラインアップを活用してもらうことで、成長の実現を後押ししている点だ。
これだけ多くの会社を買収している事実に照らせば、「ジョインした企業の改革は、SHIFT本体が主導する形で実行している」と思われるだろう。しかし実際には、SHIFT本体はグループ会社を支える立場として動き、それぞれの企業の自主性を尊重した「遠心力経営」を進めている。
上の表の左側に示した営業力、人事採用力などの「攻めの支援」にとどまらず、表の右側にある計数管理や内部統制といった「守りの支援」も行っている。この他にもCxO(最高〇〇責任者)を任せられる副業人材の提供や、業績モニタリングの高度化、技術交流など幅広く型化したPMIのラインアップを用意し、買収後の再現性ある成長を実現していることは特筆に値するポイントだろう。
M&Aを成長ドライバーとするときに陥るワナ
「M&Aを成長の柱とする」というメッセージは聞こえもよく、耳にすることも増えたが、冒頭で述べたように簡単なことではない。当初はうまくいっているように見えても、M&Aを継続していくうちに、成長維持が困難になるだけでなく、減損リスクの抑制などにも問題が生じ始める。それらの事象は構造上の問題、ワナと言ってもいいくらいに頻繁に発生している。
例えば、そこまで規模の大きくない企業があったとしよう。この企業が上場直後のタイミングで、売り上げ5億円の会社をM&Aしたらどうなるだろうか。もともと規模が小さいこともあり、おそらく容易に自社の2桁成長を達成するだろう。
その要領で翌年は売り上げ10億円の会社をM&Aの対象として、さらに翌々年は売り上げ20億円の会社を対象としながら成長を続けていくと、どんな現実が待ち受けているだろうか。当然、規模が拡大するにつれて、対象案件数は減少していく。さらに問題なのは、規模の拡大により相対ではなく、入札形式の案件が増えることで、バリュエーションが上がりやすくなることだ。
その結果として、成長を維持するために無理をしてでも買わなければならない状況に陥り、気づかないうちに自社の戦略から外れたM&Aを実施したり、高値づかみによる減損リスクが高まったりするワナにはまっていくことになる。
では、構造上のワナを避けるにはどうすればよいのか。そのことを今回はSHIFTの事例でご紹介したわけだが、意識しておきたいポイントを3つ、最後に提示する。
- 高値づかみしない(「SHIFTのM&Aの規律」参照)
- M&Aに頼った足し算での成長ではなく、M&Aした会社がオーガニックに成長できるPMIを実現する
- M&Aシナジーにより本体自体もオーガニックに成長する
これらはまさにSHIFTが実践していることであり、このポイントを押さえているからこそ「M&Aを成長の柱」にできているのである。
本記事ではSHIFTという個別企業の成長戦略にフォーカスを当てたが、戦略的なM&Aの実行は今後の日本経済においては、欠かすことのできない打ち手となると私は考えている。
待ったなしの人口減少により、働き手および消費者の減少が避けられないとするならば、日本から世界市場で戦える強い企業を生み出すことは喫緊の課題であることは論をまたない。そして、その課題解決のためには、SHIFTが進めてきた「再現性のあるM&A」による合従連衡が必要であり、多くの上場ベンチャーにとっても有効な打ち手となることだろう。
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