私が経営するグロース・キャピタルは、非連続な成長を目指す「上場ベンチャー」の資金調達や成長の支援をしている。以前の記事においてデータで示したとおり、高い成長を続けて上場までたどり着いたものの、上場後に成長が止まってしまう会社は少なくない。

 ベンチャーも手を打っていないわけではない。既存事業が成長の踊り場を迎える前に、新規事業を成功させ、成長の継続を狙う。しかしそれがなかなかうまくいかないのである。今回は、M&A(合併・買収)を再現性ある形で成長ドライバーにしているSHIFT(東京・港)を取り上げる。その成功の秘訣に迫ることで、ベンチャーが上場後も成長を続けるための重要な打ち手であるM&Aについて考えていきたい。

なぜ、SHIFTは成長ドライバーとしてM&Aを活用しているのか

 ソフトウエアテスト事業を起点にさまざまな関連事業を展開しているSHIFT。2005年の設立後、着実に成長を続け、14年11月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場。19年10月には東証1部(現東証プライム)に市場を変更し、今なお高い成長率を維持している。その経営の特徴の1つが、「再現性」のあるM&Aだ。

 ベンチャーの成長における打ち手として浸透しつつあるM&Aだが、「大型のM&A」で成長を実現する話は聞くが、「再現性」ある形でM&Aを成長のドライバーとしている会社はめったにないと言ってよいだろう。

 SHIFTはどのようにして、資金力のある買い手(競合)が多く、競争の激しいシステム開発、IT領域においてM&Aを着実に積み上げ、さらには買収後の成長も実現できているのだろうか。

 その秘密に迫る前に、まずはSHIFTが成長ドライバーとしてM&Aを活用している理由から確認しておこう。

 SHIFTは、30年代前半に売り上げ5000億円(22年8月期の予想売上は645億円)を目標とする成長戦略「SHIFT5000」を掲げ、その達成を通じて、IT業界の多重下請け構造を変革し、社会全体の生産性向上を目指すとしている。

 M&Aによる成長を続けられれば、定量目標である売上高5000億円に近づく。さらにジョインした会社に対して、統合効果を最大化するためのプロセスPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を通して、従業員の報酬適正化、商流改善などを進めてきた。これにより、定性目標である「IT業界の多重下請け構造を変革し、社会全体の生産性向上の実現」も大きく前進することになる。つまり、M&Aは「SHIFT5000」の実現のために欠かすことのできない重要なアクションの1つとして位置付けられているのだ。

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