もう一つの壁

端羽:ビザスクがこの先どのような企業になっていくのかというのは、コールマンのメンバーからすると買収金額以上に気にするポイントです。今回のようにパブリックマーケットから資金調達して買収を実施できるということも、チャンスを感じてくれているように思います。

 IPO前のベンチャーが買収すると上場が延期になるなど課題があります。成長のためのM&Aを行いたい。それをしたかったからこそ、IPOをしたという面もあります。

嶺井:答えづらい質問かもしれませんが、今回の112億円という買収金額は、安かったと思われますか、それとも高かったですか。

端羽:自分たちよりも規模が大きい会社を自分たちの時価総額よりも安く買えたと思っています。高いという感覚はありません。

 現在のビザスクの株価は成長期待があっての金額だとは思いますが、海外のマーケットに打って出て規模が成長するために支払った金額としては決して高くないはずです。

嶺井:買収交渉の金額のラインってありましたか?

端羽:当然自分の中に基準があり、このラインを超えたら交渉は打ち切るという金額はメンバーに伝えてありました。

嶺井:今回の買収と、ご自身の昔行われていたファンドでの買収との違いはどこにありますか?

端羽:まずはファイナンスです。ファンドはファイナンスできることが事前に分かっていますが、今回のようにお金がつくかどうか分からない中での交渉とは毛色が異なります。お互いに妥結してもお金が集まらず中止になることだってあり得ますから。だからこそ、一言で言えばしびれる体験でしたね。

 また上場企業はのれんの償却や買収に絡む費用がシビアに評価されます。そういった点でより慎重な検討を行いました。

嶺井:今後もM&Aは行っていくのでしょうか?

端羽:はい、考えています。前提にはオーガニックな成長ありきですが、私たちは非連続な成長をしていきたいと考えています。自分たちの時間が買える買収機会があればさらなる検討は進めていくスタンスです。

嶺井:今回の一連の買収検討から実行、PMIを経て得た学びを教えてください。

端羽:日本は世界の隅っこにある国だとしみじみ思いました。米国企業を買収したことによりマーケットが大きく感じられるだけでなく、自然と海外情勢に対してのアンテナが張り巡らされましたね。

 日本にとどまっていると、自然にこぢんまりとやれてしまう課題感がありました。買収したことで、さらにグローバル企業になります。チャレンジから学べますし、世界は広いけれども密接に結びついていると気づかされましたね。

 また、逆に日本でやっていることのメリットにも気づかされました。日本語という言語の壁は、海外からの参入障壁にもつながっていますから。

嶺井:それは視座が上がる、もしくは情報量が変わる、ということでしょうか。

端羽:両方だと思いますが、一番は情報量が圧倒的に変わります。考えなければいけないことも増え、グローバル視点で見るように変化していきます。

 その結果、事業の掛け算をする「変数」も変わっていきます。例えば、日本でとどまっていると開発拠点を地方にするといっても、何県にしようかという議論でしょう。グローバルであれば、当たり前のように世界中に選択肢があります。日本は世界第3位の経済大国ではありますが、世界では日本以外の方が圧倒的に大きいわけです。10年後~20年後を見据えて情報収集し、経営判断していきたいと思っています。

買収したからこそ日本のマーケットチャンスを感じられる機会も増えました。今回の買収を経てグローバル化は進めますが、大前提として日本のマーケットも拡大していきますし、勝ち切りたいと考えています。日本のクライアントの皆様にとっても、弊社が海外データベースを持つことによってリサーチやビジネスアドバイスの選択肢も増えたはずです。

嶺井:まだまだ海外M&Aは選択肢になかったり、ハードルの高さを目の当たりにしたりしている上場ベンチャーは多いと思います。最後に一言メッセージをいただけますでしょうか。

端羽:まず日本のベンチャーの上場が「小粒上場」と揶揄(やゆ)、非難されることには違和感を感じています。小さなサイズでも上場できることは何が悪いんだと。世界的に見てもこのサイズで上場できる日本の環境は恵まれています。

 上場はあくまでファイナンスの一手法なので、未上場で調達しようが、パブリックで調達しようが成長資金を獲得できるならどちらの選択肢もあっていいはずだと思います。

嶺井:120%賛成です。昨今、新規上場基準を引き上げるべきだという意見もありますが、それはスタートアップにとって早いタイミングでの上場という選択肢を奪うことになります。ある意味、新しい規制を設けるという話で、未上場で継続的な調達が難しい業種や、上場企業としての信用力を獲得することでより成長を加速させることができる企業にとっての成長機会を奪ってしまいます。

 レイトステージでの調達環境をより整備し、日本独自の早いタイミングでも上場できるし、海外同様に未上場でも長くチャレンジできるという両選択肢がある状態をつくっていくことが目指すべき姿だと思います。

端羽:そうですね。上場ベンチャーの皆さんには、この日本のマーケットの面白さを生かしてどんどん海外M&Aにチャレンジしていきましょう、そして一緒にどんどん成長していきましょう、と伝えたいです。

嶺井:熱いメッセージをありがとうございました。

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