判断のポイントは「成長の型」ができているか否か

 ここまでラクスルの新規事業の成功要因を見てきたが、読者の皆さんの中には、冒頭で述べた「選択と集中」というセオリーから外れた戦略は正しいのか、あるいは再現性があるのかと疑問に思っている方もいるのではないだろうか。

 繰り返しになるが、大企業と違って「戦力」の限られているベンチャーにとって「選択と集中」こそが成功のセオリーであると言われる。それでも、ラクスルは上場前から新規事業にチャレンジしてきた。つまり、セオリーとは正反対の戦略を取っていることになる。

 私はここにラクスル独自の経営の神髄があると考えると同時に、他のベンチャー企業にとっても再現可能な学びがあるとも思っている。

 そもそもラクスルは、既存の事業がしっかりと立ち上がっていないタイミング、「成長の型」ができていないタイミングでは新規事業を本格化させないという方針を取っている。既存事業の足元が固まっていない段階では、新規事業に軸足を移すわけではないのだ。

 では、なぜ、上場前に新規事業をスタートさせたかといえば、既存の事業に一定の型(≒ユニットエコノミクスが見える構造)が完成し、型の精度を高い水準まで持っていけるという確信を持つことができたからだろう。

 要するに、新規事業をスタートさせるタイミングは、上場前とか上場後という時間軸ではなく、既存事業の「成長の型」が完成し、「セールスなのか。それともマーケティングなのか」という拡張のドライバーを特定できたときなのだ。

 今回はラクスルの成長を新規事業の観点から分析し、新規事業を始めるタイミング、領域選定、撤退基準のポイントなどを交えながらその成功の秘訣に迫った。

 既存事業の「成長の型」ができたタイミングで新規事業の探索フェーズに入り、小さなチャレンジをスタートするという、ラクスルが提示した新たなセオリーは、「上場後も非連続な成長をしたい」と考えるベンチャー企業の参考になるはずだ。

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