キーワードは「領域選定」「解像度」「仕組み化」

 とはいえ、新規事業を成功させ続けるのは容易ではない。ここにラクスルの経営のすごみがあるわけだが、ここからは、ラクスルが新規事業を手掛ける際に重要視しているポイントから成功の要因を探っていく。

 1つ目は「領域選定」。

 一言で言ってしまえば、やみくもに新規事業にチャレンジするのではなく、自社の既存アセットが活用できる事業領域を選定しているということだ。すでに存在しているアセットを活用すれば、コストを抑えながらもシナジーを最大化できるため、成功確率が格段に上がるだけでなく、成功した際に大きく伸長させることができる。

 具体的には、間接費(間接材、間接サービス)市場の中でも「TAM」(Total Addressable Market、獲得可能な最大市場規模)が大きく、かつ「多重下請け構造」にあって、「EC化されていない」市場を選んでいる。つまり、自らの強みを発揮できる領域でバーティカルプラットフォームを立ち上げ、市場を変革するのがラクスルの新規事業の特徴と言える。

 次のポイントは、人材だ。新規事業の立ち上げを担うゼロイチ人材をいかにアサインするかを悩んでいる企業は少なくないが、その点、ラクスルの視点は非常に明確で、「新規事業に対して解像度が高い人材かどうか」「仕組み化できる人材かどうか」という2点を重視して事業リーダーを選んでいる。

 ここで言う「解像度が高い人材」というのは、市場、顧客、そして自分たちのサービスを明確に具体性をもって理解している人を指す。「仕組み化できる人材」というのは、新規事業がスケールするための枠組みや手順を構築できる人を指している。

 多くの企業では、新規事業立ち上げ人材の選定において、新規事業の立ち上げの「経験」に重きが置かれるのに対して、ラクスルの場合は、経験よりも「解像度の高さ」「仕組み化」という観点が最重要視されていると言ってよいだろう。実際の新規事業では、マーケティングを管掌する役員がアサインされるケースだけでなく、「解像度」と「仕組み化」の2点をクリアしていれば、経験の少ない若手がアサインされることもあるという。

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